靭性、破壊靭性

靭性、破壊靭性とは

靱性(じん性)とは金属などの材料のねばり強さをあらわします。建物や橋などの構造物や、船、飛行機、自動車などの乗り物、その他機械などが、衝撃荷重によりガラスのように脆く壊れては非常に危険です。構造物や機械の安全を確保するには、材料の強度(引張強さなど)の他に、ねばり強さすなわち靱性も評価する必要があります。
靱性の評価には、簡便性からシャルピー衝撃試験などの衝撃試験が良く用いられます。ただし、衝撃試験は材料の靱性の大小を比較するもので、そのまま設計には使用できません。重要な構造物や急速破壊が大規模な事故につながる機械には、破壊力学を元にした破壊靭性による評価が用いられています。
以下に、1.衝撃試験、2.破壊靭性試験を紹介します。

1.衝撃試験

鉄鋼材料をはじめ各種金属材料の靭性を評価する手法として最も一般的なものは、シャルピー衝撃試験です。通常10×10×55mmの試験片中央片側にV字あるいはU字のノッチを加工した試験片を用います。試験片を所定の温度にし、試験機のハンマーで破壊した際の吸収エネルギーや脆性破面率を測定します。
鉄鋼材料は低温になると脆くなる(脆性破壊しやすくなる)特性があります。種々の温度で試験を行い、脆性延性遷移温度を求めることができます。

金属材料では通常、エネルギー容量が300Jや500Jのシャルピー衝撃試験機が用いられますが、プラスチックや薄い鋼材、アルミニウムなど、吸収エネルギーが低い材料に対応した低容量シャルピー衝撃試験機(50J)も保有しています。
また、厚板や大径管など実寸法板材の靱性評価に用いわれるDWTT試験(Drop Weight Tear Test)、DN試験などの落重試験も可能です。

89-1
シャルピー衝撃試験機と試験片

衝撃試験の適用分野(用途)

装置仕様

シャルピー試験機 エネルギー容量 300J、500J
温度 -196°C~900°C
*通常; -196°C~180°C
DWTT試験機 エネルギー容量 30000J

衝撃試験の事例

事例;吸収エネルギーと破面率の遷移曲線

低容量シャルピー衝撃試験機(50J)により、厚さ2mmの薄板について、試験温度25°C~120°Cの範囲で、シャルピー衝撃試験を行ない、吸収エネルギーと破面率の遷移曲線にまとめた例です。吸収エネルギー遷移温度、脆性・延性破面率遷移温度とも約100°Cです。

低容量シャルピー試験


50Jシャルピー衝撃試験機

吸収エネルギーと延性破面率の遷移曲線


吸収エネルギーと延性破面率の遷移曲線

*:破面遷移温度:破面率50%になる温度
エネルギー遷移温度:延性破面率100%での吸収エネルギーの1/2の値に相当する温度

2.破壊靭性試験

き裂が存在する材料に応力がかかっている場合,き裂が進展するためには材料の有する抵抗力に打ち勝たなければなりません。 このき裂進展に対する抵抗のことを,広い意味で破壊靱性(fracture toughness)と呼びます。
構造物や機械の設計の際には使用中に壊れないように、材料力学に基づいて、各部にかかる応力が、強度(引張強さ、降伏点)に対して十分小さくなるように設計されています。

き裂が存在する材料の評価には、破壊力学で用いられる力学的パラメータである応力拡大係数KやCTODが用いられ、これらが対応する破壊靭性(KIC、限界CTOD)に対して小さければき裂は進展せず、破壊は発生しません。
破壊靭性は、材料力学の強度に相当する材料固有の物性値であり、破壊靭性試験により求められます。

材料力学と破壊力学の駆動力および抵抗

適用分野(用途)

装置仕様

静的引張試験機
または
疲労試験機で試験実施
試験温度 -196°C~室温
試験機容量 500kN

破壊靭性試験法

破壊靭性試験は対応する治具およびクリップゲージがあれば、静的引張試験機または疲労試験機で試験可能です。鉄鋼材料は低温になると脆性破壊しやすくなる特性があるため、冷却槽の付いた静的試験機を用いることがあります。


破壊靭性試験状況

破壊靭性試験の規格にはASTM E399、ASTM E1820、WES 1108、BS7748、ISO12135などがあり、試験方法や破壊靭性の計算式は異なります。ただし、規定される試験片形状や治具形状には若干の差はあるものの、クリップゲージ変位を測定しながら静的に試験力をかけることは同じです。

破壊靭性試験片には、CT試験片と3点曲げ試験片があります。ノッチの先端にはあらかじめ疲労き裂を導入します。

破壊靭性試験と試験片形状

CT試験


破壊靭性試験状況(CT試験片)

破壊靭性試験状況(3点曲げ試験片)

破壊靭性試験の事例

事例1;低温CTOD試験の例

板厚20mmの鋼板溶接部について、3点曲げCTOD試験を行った際の試験力-クリップゲージ変位曲線を示します。室温から温度が低下するにしたがって、破壊に要するエネルギーが減少し、脆性破壊しやすくなることが分かります。CTODも指数関数的に低下します。

低温CTOD試験の試験力-クリップゲージ変位曲線(試験温度による変化)

公的規格

【衝撃試験】


【破壊靭性試験】

ページトップ お問い合わせ