ヤング率、剛性率、ポアソン比、内部摩擦測定

ヤング率・剛性率は、機械や構造物を構成する部材に発生する応力や熱による変形を、シミュレーション等を用いて評価する場合に必要不可欠な物性値の一つであり、様々な方法・規格で測定されています。
また、内部摩擦は材料などに応力を加えたとき、その応力を緩和するように原子や欠陥部分が動き、その外部応力を吸収することによって起きる現象で材料の制振性を評価することが可能です。
当社では下表に示す自由共振法と片持ち共振法を用いて様々な材質、形状のヤング率、剛性率、ポアソン比、内部摩擦の評価を行っています。

主な弾性率測定方法の分類1)

共振法の特長

  1. 1)試験片に生じるひずみが小さい。
  2. 2)金属だけでなく、ガラスやセラミックスの脆性材料も測定可能。
  3. 3)小型試料が測定可能。
  4. 4)試験温度制御が容易で、1つの試料でヤング率や剛性率の温度依存性の測定が可能。
  5. 5)不活性雰囲気下で、試料の酸化を抑えた測定が可能。

測定装置と測定項目

測定項目 ヤング率、内部摩擦 剛性率、内部摩擦
装置外観
装置名 日本テクノプラス(株)製 JE2-RT型 日本テクノプラス(株)製 JG2-RT型
対象 単層材、多層材 単層材
測定方法 自由共振法 自由共振法
周波数範囲 600Hz〜20,000Hz 600Hz〜20,000Hz
温度範囲 室温 室温
雰囲気 大気中 大気中
対象試料 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等
参照規格 JIS R 1602、ASTM E 1875、ISO 23486 等 ASTM E 1875
標準試料形状 60mm×10mm×2mm 60mm×10mm×2mm
特長 ・多層解析を用いることで2層材、3層材試料の各層のヤング率が評価可能。
・曲げ振動モードにおける内部摩擦測定が 可能。
・ねじり振動モードにおける内部摩擦測定が可能。

※ポアソン比は等方性材料と仮定しヤング率と剛性率から算出

測定項目 ヤング率、剛性率、ポアソン比※ ヤング率、剛性率、ポアソン比※
装置外観
装置名 日鉄テクノロジー(株)製 自由共振法
ヤング率・剛性率測定装置
日本テクノプラス(株)製 EG-HT型
対象 単層材、多層材 単層材
測定方法 自由共振法 片持ち共振法
周波数範囲 〜数kHz 〜400Hz程度
温度範囲 室温〜1,100°C
(室温以下は別途ご相談下さい)
-170°C〜1,200°C
雰囲気 Ar、N2、大気中、減圧下(×10-3Pa程度) Ar、N2
対象試料 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等 金属、樹脂、(ガラス、セラミックス) 等
対応規格 JIS R 1602、JIS R 1605、JIS Z 2280、 ASTM E 1875、ISO 23486 等 -----
標準試料形状 100mm×20mm×2mm 60mm×10mm×2mm
特長 ・様々な規格に則った評価が可能。
・多層解析を用いることで2層材、3層材 試料の各層のヤング率が評価可能。
・当社開発装置。
・試料を強制振動させるため、内部摩擦の大きい試料も測定が可能。

※ポアソン比は等方性材料と仮定しヤング率と剛性率から算出

1.自由共振法(室温)

ヤング率測定では左図のように、試料を2本の細線の上に載せ、試験片の上下面に垂直に駆動力を加えます。一方、剛性率測定では右図のように、十字に貼られた細線の上に試料をのせ、試料に対して捩る振動を加えます。
検出は試料近傍に設置した検出器(マイクロフォン)によって行います。発振器の周波数を徐々に変化させ、これに応じて試験片が振動するように駆動力を加えながら増幅された検出器の出力を観察します。ヤング率および剛性率は試料の共振する周波数および寸法などから算出します。

装置


日本テクノプラス(株)製 JE2-RT型

日本テクノプラス(株)製 JG2-RT型

標準試料形状


図 標準試料形状、寸法(mm)

※上記と異なる形状での測定をご希望の場合はご相談下さい。

自由共振法(室温)によるSUS304のヤング率・剛性率・内部摩擦測定例

測定条件

測定結果

室温におけるSUS304のヤング率・剛性率を共振法を用いて測定し、メーカー提供値と比較した結果、いずれの値も1%程度で一致していました。
また、下図の様に半価幅法を用いて内部摩擦を評価した結果、本結果もメーカー提供値と良い一致を示しました。

試料;SUS304 1次曲げ共振周波数 Hz ヤング率 GPa 内部摩擦
メーカー提供値 2047.75 191 4.57×10-4
当社測定値 2048.24 191.1 4.62×10-4
試料;SUS304 1次ねじり共振周波数 Hz 剛性率 GPa 内部摩擦
メーカー提供値 6966.07 71.1 8.12×10-4
当社測定値 6970.43 71.2 8.22×10-4
 

図 内部摩擦測定結果(半価幅法)

2.自由共振法(高温)

自由共振法は下図の様に試料を2本の糸で支持します。
発振器から糸を通して曲げの振動(ヤング率用)、捩り振動(剛性率用)を試料に加えます。加える振動数を徐々に変え、試料が共振する周波数を測定し、試料寸法や質量等から計算によりヤング率、剛性率を求めます。

装置の概略図

標準試料形状

ヤング率測定用


図 ヤング率測定用試料形状、寸法(mm)

ヤング率・剛性率測定用


図 ヤング率・剛性率測定用試料形状、寸法(mm)

※上記と異なる形状での測定をご希望の場合はご相談下さい。

自由共振法(高温)による Ni基合金(ハステロイX)のヤング率・剛性率の測定例

当社にて開発した雰囲気制御可能な自由共振法による高温ヤング率・剛性率測定装置を用い、Ar雰囲気、室温から1100°Cまでの条件下で、Ni基合金(ハステロイX)のヤング率・剛性率を測定しました。

測定条件

ヤング率・剛性率の温度依存性測定結果

図5 ヤング率・剛性率測定結果


Ni基合金(ハステロイX)のヤング率・剛性率の温度依存性を測定した結果、下記の4点が分かりました。
(1)ヤング率・剛性率とも負の温度依存性を示しました。
(2)10mm幅と20mm幅の2形状で測定を行いましたが、形状による差は観測されませんでした。
(3)各温度における繰り返し再現性も良く、1GPa以内で一致していました。
(4)ヤング率について文献値2)と測定結果を比較した結果、±2GPa程度で一致していました。

自由共振法(高温)による遮熱コーティング材のヤング率の多層解析例

ガスタービンブレードなどの表面には燃焼ガスの熱で金属基材が溶融や劣化を防ぐため、遮熱コーティング(TBC:Thermal barrier coatings)皮膜が施されています。この皮膜は、熱の伝わりを遮る遮熱性と、割れや剥離に対する耐久性という相反する性能が要求されます。このため、その設計・開発には、高温熱伝導率や高温ヤング率・剛性率などの信頼性の高い材料物性データの取得が必要不可欠です。
従来はコーティング皮膜の各層を、単層の試験片で評価しましたが、これでは実機の状態とは異なるため、信頼性が十分とは言えませんでした。
そこで2021年にISO 23486規格が制定され、基材と遮熱コーティング皮膜一体型試料による各層のヤング率測定が可能となりましたので、本方法を用いて遮熱コーティング材(多層材)の評価を行いました。

遮熱コーティング皮膜について

遮熱コーティング皮膜は基材上に中間層(Bond Coat層;BC層)と断熱層(Top Coat層;TC層)の2層がコートされています。
材質:基材 :Ni基合金
BC層:CoNiCrAlY
TC層:8YSZ(ZrO2+8%Y2O3)


図2-1 遮熱コーティング皮膜の断面組織写真

上図のような多層構造を有する皮膜の各層のヤング率を求めるには、下図に示す3種類の試料を作製し、各試料の寸法および質量、1次曲げ共振周波数などを測定し、その結果を合わせて計算します。


図2-2 遮熱コーティング皮膜の断面組織写真

(b)のように、基材にBC層などがコーティングされた2層材試料におけるBC層のヤング率は、単層材(a)と2層材(b)の2つの試料の共振周波数の差などから多層解析により求められます。さらに(c)のようにTC層が存在する3層試料のTC層のヤング率は(a)と(b)と(c)の共振周波数の差などから多層解析により求められます。

図2-1の遮熱コーティング皮膜からTC層のみを切出してヤング率を測定した結果と、図2-2の3種類の試料をISO 23486を用いて多層解析により求めたTC層のヤング率の結果を比較し、図2-3に示します。

測定条件

TC層単層
・試料形状: 100mm×10mm×2mm

多層解析用試料
・試料形状:単層材試料:100mm×10mm×2mm(基材(Ni基合金))
               2層材試料 :100mm×10mm×2.2mm(基材(2mm)+BC層(0.2mm))
               3層材試料 :100mm×10mm×2.7mm(基材(2mm)+BC層(0.2mm) +TC層(0.5mm) )

測定結果


図2-3 ヤング率測定結果(Arフロー雰囲気)

皮膜からTC層のみ切出して測定したヤング率(●)は、温度上昇に従って単調に低下しました。一方、皮膜一体型試料の多層解析により求めたヤング率(■)は、室温〜600°Cまで温度上昇に従って低下し、その後、僅かに上昇が認められました。つまり、TC単層のヤング率と実機の多層コートしたTC層のヤング率は、特に高温で挙動の違いがあると言えます。

このヤング率の挙動差の要因を考察するため、基材、BC層、TC層の単層材試料からそれぞれの平均線膨張係数と、BC層の高温ビッカース硬さのデータ取得を行いました。

その結果、TC層の平均線膨張係数が基材やBC層に比して小さいこと(表2-1)、またBC層は600°C以上で軟化すること(図2-4)が確認されました。以下、データを考察いたします。

  1. 1)溶射時の熱膨張差でTC層へ引張応力が残り、TC単層に比して室温のヤング率が低くなった。
  2. 2)室温〜600°Cでは、TC層に比して基材とBC層の平均線膨張係数が大きいため、TC層に働く引張応力で微小亀裂の開口等によりTC単層比してヤング率が低くなった。
  3. 3)600°C以上ではBC層が軟化し、TC層に働く引張応力が緩和され、微小き裂開口量が減少してヤング率が増加傾向を示した。
  4. 4)TC単層材では、基材、BC層の熱膨張の影響がないため、温度上昇とともにヤング率が単調に低下した3)

この結果、ヤング率の挙動差は熱膨張差による残留応力と微小き裂の開口が影響したと考えられました。
このように、多層からなるコーティング材を実機と同じ多層のままで評価することが可能な評価法を用いることで、より正確なヤング率の温度依存性の評価が可能となります。
このデータをシミュレーションに用いた場合には、より実機に近い挙動の解析が期待されます。

表2-1 平均線膨張係数測定結果(30〜1000°C)

試料 平均線膨張係数(1/K)
基材 1.70×10-5
BC層 1.80×10-5
TC層 1.06×10-5

図2-4 BC層の高温ビッカース硬さ測定結果

3.片持ち共振法

図の様に試料を上部の固定部に取付け測定温度まで加熱します。その後、ヤング率を測定する場合は前後(Aの方向)に、剛性率を測定する際にはねじる(B方向)振動を試料に与えます。その時に共振する周波数および試料の質量、寸法などからヤング率、剛性率を算出します。

装置の概略図

標準試料形状


図 標準試料形状、寸法(mm)

※上記と異なる形状での測定をご希望の場合はご相談下さい。

片持ち共振法と自由共振法のヤング率・剛性率測定結果の比較

当社では片持ち共振法と自由共振法の2つの方法を用いてヤング率・剛性率の温度依存性を測定することが可能です。今回、Ni基合金(ハステロイX)のヤング率・剛性率の温度依存性を測定し、その結果を比較しました。

測定条件

測定結果

ハステロイXを片持ち共振法と自由共振法で室温~1100°Cの温度範囲で評価した結果、下記の3点が分かりました。

  1. (1)ヤング率は-3%~+4%、剛性率は-4%~+2%で一致し、測定方法による大きな差は観測されませんでした。
  2. (2)片持ち共振法は自由共振法と比べて小さな形状でも評価可能なため、試料採取が困難な場合は、片持ち共振法を用いることが有用であると考えられます。
  3. (3)自由共振法はJIS規格やASTM規格、ISO規格にも対応しており、金属以外にもガラスやセラミックスなどの脆性材料の評価も可能となっています。

材質や試料形状、測定温度により最適な測定方法をご提案しますので、お気軽にお問合せ下さい。

参考文献

  1. 1)2015年度日本機械学会年次大会,J0430105,高橋智 他.
  2. 2)日刊工業新聞社発行,藤吉敏生,マテリアル・データベース-金属材料-,1989.
  3. 3)  経済産業省委託 平成31年度 省エネルギー等 国際標準開発【省04】タービンの遮熱コーティングの高温特性試験方法と健全性評価方法に関する国際標準化 成果報告書

参考技術資料

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