フラッシュ法を用いた熱拡散率・熱伝導率測定

フラッシュ法を用いた熱拡散率・熱伝導率測定とは

熱拡散率(単位:m<sup>2</sup>/s)は熱の伝わる速さ表す物性値であり、フラッシュ法を用いて求める事が可能です。さらに、他法で求めた比熱容量や密度の値を用いて熱伝導率が算出できます。

熱伝導率の算出

フラッシュ法を用いた熱拡散率・熱伝導率測定の原理

熱の吸収などを良くするため黒化材(カーボンスプレー)を塗布した試料の片面からパルス光を照射し、均一に加熱します。
次に、照射面の逆面の温度変化を赤外線検出器によって読み取り、温度上昇曲線を得ます。得られた温度上昇曲線に、周囲への熱損失やパルス幅の補正を行う等、理論モデルを適用し解析することにより熱拡散率を算出します。

サンプル仕様

装置仕様

測定項目 低温用装置
装置外観
装置名 NETZSCH製 LFA447 Nanoflash NETZSCH製 LFA467 Hyperflash
測定項目 熱拡散率(厚み方向・面内方向)
2層・3層材の熱拡散率測定
熱拡散率(厚み方向・面内方向)
2層・3層材の熱拡散率測定
測定温度 室温〜300°C -100°C〜500°C
測定範囲 1×10-7 m2/s 〜 1×10-3 m2/s 1×10-8 m2/s 〜 2×10-3 m2/s
雰囲気 大気静止雰囲気 不活性ガス、減圧下、大気静止雰囲気
対象試料 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等
参照規格 JISH7801、JISR1611、JISH8453 等 JISH7801、JISR1611、JISH8453 等
特長 液体・粉体の測定が可能(事前相談要) マイナス温度域での測定が可能 薄膜の測定が可能
測定項目 高温用装置
装置外観
装置名 NETZSCH製 LFA457 Microflash 京都電子工業製 LFA-502
測定項目 熱拡散率(厚み方向・面内方向)
2層・3層材の熱拡散率測定
熱拡散率(厚み方向・面内方向)
2層・3層材の熱拡散率測定
測定温度 室温~1100°C 室温~1400°C
測定範囲 1×10-8 m2/s~1×10-3 m2/s ~1.2×10-4 m2/s
雰囲気 不活性雰囲気 不活性雰囲気・真空(室温は大気)
対象試料 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等 金属、ガラス、セラミックス、樹脂 等
参照規格 JISH7801、JISR1611、JISH8453 等 JISH7801、JISR1611、JISH8453 等
特長 In-Plane法を用いた面内方向の熱拡散率測定対応が可能(事前相談要) 1400°Cまでの測定対応が可能

フラッシュ法を用いた熱拡散率・熱伝導率測定の事例

事例1;各種金属材料の熱拡散率測定

試験の内容

◆SUS310、Al、Mo、Cuの4材質について、-100°C〜500°Cの熱拡散率を測定し、文献値・メーカー提供値と比較しました。

試験条件

熱拡散率測定結果


熱拡散率測定結果

SUS310、Al、Mo、Cuの4材質を測定した結果、文献値、メーカー提供値と比べ±5% 以内で一致しており良好な結果が得られました。

事例2;ポリイミドフィルムの熱拡散率測定

試験の内容

◆ポリイミドフィルム(25μm厚み)の熱拡散率測定を実施し、文献値と比較しました。

試験条件


図 試料外観および使用治具

※試料外観写真はメーカーカタログより引用

熱拡散率測定結果

表 熱拡散率測定結果

試料 熱拡散率, mm2/s 差, %
ポリイミド 0.101 -1.98
※文献値(0.103(mm2/s)):熱物性ハンドブック

試料厚み約25μmのポリイミドフィルムを専用治具を用いて室温の熱拡散率を測定した結果、文献値と2%以内で一致していました。
樹脂等は非常に薄い試料でも評価出来ますので、お気軽にお問合せ下さい。

事例3;面内方向の熱拡散率測定

基板やフィルムなどは、厚み方向と面内方向で熱的性質が異なる異方性のものが数多く存在します。異方性試料の場合、通常の厚み方向の熱拡散率だけではなく、面内方向の熱拡散率及び熱伝導率の評価も重要となります。
当社では、ラメラ法とIn-Plane法を用いた様々な試料の面内方向の熱拡散率測定が可能です。

測定方法

  ラメラ法 In-Plane法
対象試料 熱拡散率の小さい樹脂や金属、膜厚が1mm以上の金属 厚み方向の熱拡散率10mm2/s以上の薄膜
試料形状 専用ホルダーにセットした状態で10mm角程度必要。
加工による損失や、試料厚みにより必要試料量は変わりますので、お気軽にご相談下さい。
φ27~30mm×膜厚1mm以下
測定温度範囲 別途、ご相談   ※温度を上げても揮発分がなく試料が変形しない温度まで
注意点 測定光が漏れない様に試料同士を押さえつける必要があるため、壊れ易い試料は要相談 異方性試料の場合、解析に厚み方向の熱拡散率値が必要

ラメラ法イメージ図

 In-Plane法イメージ図

(1)ラメラ法を用いた結晶性樹脂の測定例

試験の内容

◆3種類の樹脂(板状のPEとPC、フィルム状のPET)を加工し、厚み方向(Z方向)および面内方向(X方向、Y方向)の3方向の熱拡散率測定を行いました。
PE:ポリエチレン PC:ポリカーボネート PET:ポリエチレンテレフタレート
試験装置: NETZSCH製 LFA447Nanoflash

種類 測定方向 板厚 (mm) 熱拡散率 (mm2/s)
PE (板状) 厚み(Z) 1.020 0.196
面内(X) 1.735 0.216
面内(Y) 1.684 0.216
PC (板状) 厚み(Z) 1.077 0.107
面内(X) 1.705 0.107
面内(Y) 1.844 0.103
PET (シート状) 厚み(Z) 0.100 0.088
面内(X) 2.242 0.344
面内(Y) 2.145 0.276

PE  :厚み方向と面内方向で異なる熱拡散率が得られました。面内方向内では大きな違いはありませんでした。
PC  :全方向で同程度の熱拡散率が得られました。
PET:3方向全て異なる熱拡散率が得られました。

PEおよびPETは結晶性の樹脂で、特にPETは延伸加工により結晶の方向性が大きく異なる為、面内方向でも熱拡散率に違いが出たと考えられます。
PCは微結晶性ではあるが実質非晶質の為、結晶に方向性が無く、熱拡散率に差が生じなかったと考えられます。

(2)In-Plane法を用いた等方性グラファイトおよびアルミ箔の面内方向の測定例

試験の内容

◆等方性グラファイトおよびアルミ箔の面内方向の熱拡散率を測定しました。
試験装置: NETZSCH製 LFA457 Microflash

通常の方法(厚み方向測定)での熱拡散率を標準値として、In-Plane法で面内方向の熱拡散率測定した結果との誤差を確認しました。
この試料では測定誤差は4.7%でした。

アルミ箔を28mmφに切り出し、照射部と検出部にカーボンスプレーしたものをIn-Plane法で面内方向の熱拡散率測定しました。(カーボンスプレーは照射光を熱に変換するために行います)
面内方向の熱拡散率は、73.35mm2/sでした。

事例4;多層材の熱伝導率測定 遮熱コーティング(TBC)の熱伝導率測定

コーティング層の熱伝導率を測定する際,膜厚が薄いために、膜単体で熱伝導率を測定することが困難です。
当社では、基材とコーティングが一体の試料を測定し、基材のみの測定結果との差異からコーティングの熱伝導率を評価する事ができます。
ISO制定に参画
(ISO 18555:2016年2月制定 Determination of thermal conductivity of thermal barrier coatings)

測定方法

多層からなるコーティング層の熱伝導率測定例

本測定・解析結果では、コーティング層としての熱伝導率は、単層で評価した熱伝導率とほぼ同じ値となりました。

謝辞;
本データは経済産業省「タービンの遮熱コーティングの特性評価試験方法に関する国際標準化」の委託業務の結果得られたものです。

補足説明

当社は、経済産業省より委託のエネルギー使用合理化国際標準化推進事業の内、省エネルギー等国際標準共同研究開発事業による「タービンの遮熱コーティングの特性評価試験方法に関する国際標準化」に参画しています。本手法により、様々な多層材の熱伝導率測定が可能です。

参考文献

表面技術 vol.63 No.5(2012) p.301-305 「溶射による遮熱コーティング」首都大学東京 高橋 著

参考技術資料

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