示差走査熱量計(DSC)
DSC:Differential Scanning Calorimetry
示差走査熱量計(DSC)とは
示差走査熱量測定(DSC: Differential Scanning Calorimetry)では、測定試料と基準物質の温度をプログラムに従って変化させていき、その過程での両者の温度差を計測することで、試料への熱の出入り(吸熱・発熱)を定量的に測定することが可能です。本装置の特長としてベースラインの安定性が挙げられます。そのため、試料の融解温度や融解熱量、ガラス転移、熱履歴、結晶化、硬化、磁気変態点、酸化安定性、熱変性など様々な熱特性を評価することが可能です。
JIS R 1672やJIS K 7123などを参照し、低酸素濃度雰囲気下で金属材料やセラミックス、ガラス、樹脂などの比熱容量の温度依存性を求めることが出来ます。低露点、低酸素環境で試料加工・準備をできる環境を整備し、近年急成長している車載電池の熱分析を行っています。
示差走査熱量計(DSC)の原理
試料と基準物質をある調節された温度プログラムの同一条件下におき,両検体に流入する熱流束の差を温度の関数として測定します。以下の図(原理)で説明をします。
一定速度で加熱昇温すると、試料(温度:Temp(sample))と基準物質(温度:Temp(Reference)はそれぞれ同じ昇温速度で加熱され、試料内の変化が無い場合には温度差(ΔT)は一定となります。試料内に熱変化を伴う物理的、化学的反応が起こるとΔTが急激に変化をします。ここまではDTAと同様ですが、DSCの場合、ヒートシンクを介して熱の供給を行っているため、ベースラインが安定し、誤差(ノイズ)の少ない曲線が得られます。また試料ホルダー下に熱抵抗があり、熱抵抗値既知の材質を通して、示差熱を測定しているため、温度差から熱量Hを定量的に測定できます。
加熱部と試料容器
DSCのグラフ例
示差走査熱量計(DSC)の外観と装置仕様
NETZSCH社製 DSC404 F1 Pegasus
1)熱特性評価
・測定方式 :熱流束型
・測定温度 :室温 ~1600°C
・試料量 :約20mg (比重による)
・雰囲気 :Ar、N2、Air
・昇温速度 :0.1~50°C/分
2)比熱容量測定
・測定温度 :100°C~1400°C
・試料形状 :φ5mm×1mm
・雰囲気 : Ar、N2、Air
・特長 :低酸素濃度雰囲気で測定可能
NETZSCH社製 DSC3500 Sirius
1)熱特性評価
・測定方式 :熱流束型
・測定温度 :-150°C ~600°C
・試料量 :約20mg (比重による)
・雰囲気 :Ar、 N2
・昇温速度 :0.001~100°C/分
2)比熱容量測定
・測定温度 :-100°C~500°C
・試料形状 :φ5mm×1mm
・雰囲気 : Ar、N2
示差走査熱量計(DSC)の事例
事例 1 : ポリエチレンテレフタレートのDSC測定
- ポリエチレンテレフタレートを室温~270°Cまで20°C/分で測定しました。
ガラス転移温度の測定結果
ガラス転移温度 (°C) | 試料量 | ||
10mg | 1mg | 0.1mg | |
開始 | 79.7 | 77.4 | 78.9 |
中間 | 82.5 | 80.4 | 81.7 |
終了 | 85.4 | 83.3 | 84.3 |
結晶化および融解温度と熱量の測定結果
試料量(mg) | 結晶化 | 融解 | ||
ピークトップ温度(°C) | 熱量 (J/g) | ピークトップ温度(°C) | 熱量 (J/g) | |
10 | 135.4 | 28.4 | 255.7 | -40.5 |
1 | 135.2 | 27.2 | 251.5 | -40.1 |
0.1 | 136 | 27.1 | 251.1 | -38.4 |
- 結晶化、融解に由来する発熱、吸熱反応が検出されました。
- 試料量10mg、1mgでの単位重量当たりの熱量の差は殆ど無く、精度よく測定できている事が判ります。
- 本測定では熱分析において比較的検出が困難なガラス転移点も検出できました。
事例2 : リチウムイオン電池(LiB)正極材の熱分析
- LiBセルを低露点環境(グローブボックス内)で組み立て、解体を行います。
- 未充電と満充電のLiBセル正極材の熱安定性評価を行います。
- 取り出した正極材をグローブボックス内でDSC用耐圧容器に入れ、専用ドライバーで密閉します。
LIB正極材熱分析測定のセッティング
正極材の電位(充電)測定
正極材のDSC曲線
- 充電状態の正極材(LiCoO2)は、Li0.48CoO2と電荷的に不安定になり、酸素を放出して、安定化しようとします。
- その際、放出された酸素と電解液が反応して発熱(燃焼)しますが、上記DSCの評価結果は、その現象が捉えられていると推察されます。
- 正極材を含むLiBの熱安定性評価にDSCは応用可能です。
DSCによる比熱容量測定の原理
基準物質と試料のDSC信号から空容器のDSC信号を差し引いたものをそれぞれDsとDtとすると次の式が成り立つ。
事例 3 : 液体(水)の比熱容量測定結果(室温・60°C)
- 専用の密閉容器を用いて、液体(水)の比熱容量を測定しました。
- 測定結果は文献値(理科年表:水の比熱容量)とほぼ同等の値が得られています。
水の比熱容量測定結果
温度 | 水の比熱容量 J/(g・K) | |
---|---|---|
測定結果 | 文献値 | |
25°C | 4.09 | 4.18 |
60°C | 4.19 | 4.19 |
事例4 : 低温域の比熱容量測定結果(-130°C~25°C)
- サファイアの比熱容量を-130°C~25°Cの温度範囲で測定しました。
- 比熱容量の算出に用いる基準物質はサファイアを用いているため、サファイアの文献値と測定値が同等の値を示すのは理論的には当然ですが、この様に誤差の少ない測定値を出すには、熟練したオペレーション技術と日々のメンテナンスが欠かせません。
サファイアの比熱容量測定結果
温度 | サファイアの比熱容量 J/(g・K) | |
---|---|---|
測定結果 | 文献値 | |
-100°C | 0.406 | 0.403 |
-70°C | 0.514 | 0.512 |
-50°C | 0.58 | 0.577 |
-20°C | 0.668 | 0.665 |
0°C | 0.719 | 0.717 |
25°C | 0.779 | 0.774 |
事例5 : 純Niの比熱容量測定結果(0°C~1400°C)
純Niの比熱容量測定結果を示します。測定結果は文献値とほぼ同等の測定結果が得られました。358°Cには比熱容量の増加がピークとして確認されました。この値は純ニッケルのキュリー点(358°C 理化学辞典より)と同じ値であり、磁気変態による比熱容量変化を検出していると推察されます。
公的規格
- JIS K 0129 熱分析通則
- JIS H 7101 形状記憶合金の変態点測定方法 (DSC)
- JIS H 7151 アモルファス金属の結晶化温度測定方法 (DSC,DTA)
- JIS K 7095 炭素繊維強化プラスチックの熱分析によるガラス転移温度測定法
- JIS K 7123 プラスチックの比熱容量測定方法(DSC)
- JIS R 1672 長繊維強化セラミックス複合材料の示差走査熱量法による比熱容量測定方法(DSC)
- ISO 11357 Plastics Determination of Specific heat capacity (DSC)
- ASTM E 1269 Standard test method for determining specific heat capacity
参考技術資料
関連する技術
- 熱膨張(TD)
- 熱伝導率測定
- 剛体振り子型物性試験
- 示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)
- 熱特性評価
- 熱線法熱伝導率測定
- 比熱容量
- 熱伝達測定
- 断熱法<比熱容量>
- 熱機械分析法(TMA)
- フラッシュ法を用いた熱拡散率・熱伝導率測定
- 温度傾斜法<熱伝導率/界面熱抵抗>
- 灰溶融性測定
- ヤング率、剛性率、ポアソン比、内部摩擦測定
関連する分類
熱特性評価
- 熱膨張(TD)
- 熱伝導率測定
- 剛体振り子型物性試験
- 示差走査熱量計(DSC)
- 示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)
- 熱特性評価
- 熱線法熱伝導率測定
- 比熱容量
- 熱伝達測定
- 断熱法<比熱容量>
- 熱機械分析法(TMA)
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- 温度傾斜法<熱伝導率/界面熱抵抗>
- 灰溶融性測定
- ヤング率、剛性率、ポアソン比、内部摩擦測定
粉体・焼結体特性
- ゼータ電位・粒子径測定
- 石炭及びコークスのハードグローブ粉砕性指数(HGI)測定
- 粉体材料の比表面積・細孔分布測定
- 密度測定
- マルチテスターによる粉体物性評価(流動性・噴流性)
- 粉体・焼結体特性
- 粒子径・粒度分布測定
磁気特性評価
燃料・危険物の特性評価