Cs-TEMによる高分解能構造解析 ~触媒分野への適用~

球面収差補正-透過型電子顕微鏡
(Corrector-Spherical Aberration-Transmission Electron Microscopy, Cs-TEM)
RSM-2603

Cs-TEMによる触媒粉体の観察と構造解析

球面収差補正-透過型電子顕微鏡(Corrector-Spherical Aberration-Transmission Electron Microscopy, Cs-TEM)は、対物レンズおよびコンデンサーレンズの球面収差補正を行うことで、より高分解能なSTEM像とHAADF像の撮影と、高強度極微細プローブによる原子列からの元素分析が可能な装置です。従来のSTEMマッピングでは得られなかった原子レベルの高分解能観察、元素存在位置情報による評価が可能です。
また、二次電子(SE)および反射電子(BSE)検出器が搭載されているため、通常のSTEM像に加え、粒子表面の状態も観察することが可能です。

本コンテンツでは高分解能評価の特徴を活かし、自動車用排ガス処理触媒から触媒粉体を採取してCs-STEMを用いた評価事例をご紹介します。

・Cs-STEMにおける3つの観察手法と取得できる情報

下表に、3つの異なる観察手法(BF-STEM、HAADF-STEM、SE+BSE)について、検出する信号と取得できる情報をまとめます。

観察手法 検出信号 取得情報
BF-STEM 透過電子 試料内部構造、格子欠陥
HAADF-STEM 高角散乱電子 元素分布、重元素の位置(Zコントラスト)

SE+BSE

二次電子、反射電子 表面形態(粗さ、凹凸)、重元素の位置(Zコントラスト)

BF;Bright Field (明視野)  HAADF;High-Angle Annular Dark Field (高角散乱環状暗視野) 
SE;Secondary Electron(二次電子) BSE;Back-Scattered Electron(反射電子)

事例1;Cs-STEMによる触媒粉体のSTEM/SEM同一視野観察

粉末試料について、STEMおよびSEM相当の高倍率観察情報を同一視野で取得し、粒子内部と表面形状を総合的に評価します。

●触媒粉体粒子の微細組織観察

当社保有のCs-STEMは、二次電子(SE)および反射電子(BSE)検出器を搭載しており、透過像による内部情報に加えて表面情報も同時に取得できます。
これにより、同一視野で内部と表面を対応付け、粒子の重なり・形状・内部構造を一貫して評価することが可能です。

■試料;触媒粉体  
■評価方法;同一視野でBF-STEM像、HAADF-STEM像、および SE+BSE像 を取得
■観察結果
下図にハニカムメタル触媒より採取した触媒粉体のBF-STEM像、HAADF-STEM像および、SE+BSE複合像を示します。
STEM像(BF-STEM、HAADF-STEM)によると、軽元素を主体とする比較的粗大な粒子に対して、重元素を主体とする比較的微細な粒子の付着が確認できる一方で、粒子の形状や重なりに関する情報は十分ではなく、組織としての解釈に限界があることが分かります。これに対して同一視野のSE+BSE複合像では、粒子本来の凹凸等の形状が可視化され、組織としての解釈を深めることが可能です。

例えば、中央に存在する五角形の粒子は、部分的にコントラストの濃淡が認められます。この濃淡の要因はSTEMでは理解が不足しますが、SE-BSE複合像を合わせることで、板状の粒子であること、板状粒子薄いコントラストは辺やクラックをみていることが明らかとなりました。


 

■まとめ
以上より、Cs-STEMに搭載されたSE/BSE検出器を用いることで、粉末試料に対して内部情報(透過像)と表面情報(SE-BSE像)を同一視野で同時取得でき、STEM単独では把握しにくい粒子の形状・重なり・表面起因のコントラスト要因を補完できます。その結果、粒子の付着状態や形態を含めた組織解釈の妥当性・解像度を向上させ、粉体の構造評価をより確実に実施することが可能です。

■補足
BF-STEM像およびHAADF-STEM像は透過電子を検出するため、観察像は基本的に二次元投影像となります。そのため、粉末試料のように粒子が重なりやすい試料では、粒子の重なり状態を直感的に把握しにくいという課題があります。一方、重なりや表面形状の把握にはSEM観察が有効ですが、一般にSTEMとSEMの同一点観察は容易ではありません。このような課題をクリアできる付帯検出器での観察例となります

事例2;Cs-STEM搭載EDS検出器による粉体粒子の元素マッピング

触媒粉体のように凹凸がある試料の局所的な元素分布を、TEMに搭載されたEDS検出器を用いて高い空間分解能で取得することができます。

●粉体粒子の高空間分解能な元素分布測定

事例1で組織観察を行った触媒粉体粒子についてSTEM-EDS元素マップ測定を行って、HAADF-STEM像では特定されなかった元素分布から触媒粒子の構造的評価を進められます。

■試料;事例1にて観察した触媒粉体   
■評価方法;EDS元素マッピング
■観察結果
下図に、事例1において組織観察を行った触媒粉体粒子のSTEM-EDS元素マップを示します。

赤色で示された粒子は、基材表面に触媒粉体を担持させるためのウォッシュコート層に対応するアルミナ粒子であると考えられます。
一方、アルミナ粒子の周囲に分布する緑色の粒子は、酸素貯蔵機能を有し、触媒活性の安定化に寄与することが知られているセリウム酸化物粒子に対応していると推察されます。
さらに、アルミナ粒子およびセリウム酸化物粒子の双方において、全体的に青色の粒子が重なって分布していることから、極微細なプラチナ粒子がこれらの酸化物粒子に対して広く分散する形で担持されていることが示唆されました。

このようなPtの分散状態は、触媒活性に直接影響を与える重要な要素であり、有用な知見となります。

 

 

■まとめ
以上より、TEMに搭載されたEDS検出器を用いたSTEM-EDS元素マップ解析により、凹凸を有する触媒粉体試料に対しても高い空間分解能で局所的な元素分布を把握できることが確認されました。
本手法は、触媒粒子中の構成元素および貴金属の分散状態を詳細に評価する上で、有効な解析手法であることが示されました。

このように、STEM-EDS分析により得られる高空間分解な元素分布情報を組み合わせることで、形態観察からの考察に留まらず、各構成元素の役割や配置関係を踏まえた解釈が可能となり、試料本来の機能や特性に対する理解をより深めることができます。

事例3;Cs-TEMによる触媒粒子の原子スケール構造解析・評価

Cs-STEMを用いて試料の微細構造や組織、構成元素分布を原子スケールで明らかにし、品質や劣化・不具合要因の解明に資する情報を取得することができます。特に、従来の分析手法では把握が困難なナノメートル~原子レベルの構造・組成評価を可能とし、研究開発およびトラブル解析への活用が期待できます。

●粉体粒子の結晶構造解析・成分同定

事例2で触媒粒子上に存在が示唆されたPt粒子の所在とその形態について、HAADF-STEM像観察+FFTスペクトル解析+EDS分析の一連評価により、詳細を明らかにします。
 

■試料;事例1にて観察した触媒粉体 
■評価方法;Cs-TEMによるHAADF-STEM像観察+FFTスペクトル解析+EDS分析
 1)HAADF-STEM像観察     →原子分解能の高分解能観察、HAADF-STEMの原子番号依存のZコントラストを用いて、重元素を強調した構造観察
 2)FFT(高速フーリエ変換)解析 →高分解能像にFFT解析を適用することで、結晶構造、格子間隔、方位情報などを定量的に評価
 3)EDS分析 →観察されたナノ粒子に対してEDS分析を行い、組成情報を取得
 4)複合解析による総合評価 →HAADF-STEM像、FFT解析、EDS分析を組み合わせ、微細組織の形態・結晶構造・元素分布を多角的に評価

■観察結果

下図に、Al酸化物上に担持された微細粒子のHAADF-STEM像を示します。
HAADF-STEM像において、Al酸化物と比較して顕著に高輝度を示す粒子は、事例2で触媒粉体粒子全体にみられたPt粒子であることが示唆されます。中央に観察される粒子の周期構造はFFTスペクトルを解析した結果、粒子はPtであることが確認されました。さらに、EDS分析においてRhのピークも検出されたことから、本粒子はPt-Rh固溶体を形成していることが示唆されました。
 
図 HAADF-STEM像および中央粒子より取得したFFTスペクトルとそのEDS分析結果

 

■まとめ
以上より、Cs-STEMによる多角的な高分解能解析は、原子スケールでの触媒粉体粒子の微細組織や活性成分の分布状態を詳細に評価できることが示唆されました。

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