X線回折法(XRD)
XRD;X-ray diffraction
X線回折法(XRD)とは
X線回折法(X-ray diffraction: XRD)は、試料にX線を照射し回折X線を検出して、対象物の結晶構造、結晶方位、残留応力、転位密度、結晶子サイズなどを非破壊で解析する技術です。
X線回折装置(XRD)の外観
X線回折法(XRD)の適用分野
金属材料 | 腐食生成物や析出物の同定・定量、残留γ定量 集合組織(正極点、逆極点) 残留応力、転位密度、結晶子サイズ |
ファインセラミックス | 結晶構造(格子定数、原子占有率)の精密化 |
炭素材料 | 結晶化度、結晶子サイズ |
半導体 | 結晶方位(ロッキングカーヴ、ラウエ) |
表面処理材 | 膜厚・密度(反射率測定) |
不明物、異物 | 結晶相の同定・定量 |
装置仕様
メーカー | リガク、マルバーンパナリティカル、 ブルカー |
測定法 | 集中法、平行ビーム法(斜入射法)、 微小部法、ラウエ写真 |
X線源 | CoKα線、 CuKα線、 CrKα線、 MoKα線、W白色X線(ラウエ用) |
ビーム径 | 0.05 mmφ~(1×10) mm |
X線照射領域 | 1mmφ~15mm角 |
分析深さ | 数十nm~数十μm |
検出器 | シンチレーションカウンター、 半導体1・2次元検出器 |
雰囲気 | 大気、アルゴン、ヘリウムなど |
測定温度 | 常温~1500°C (雰囲気により上限が異なる) |
試料サイズ | 0.5mm~300 mm(要相談) |
サンプル仕様
- 固体(0.5mm~300mm)
- 粉体(約mg~0.5 g) ただし、定量する場合は約5g
- 液体(要相談)
X線回折法(XRD)の原理
結晶に波長λのX線を照射すると回折現象が生じBraggの条件(2dsinθ=nλ)を満たす特定の回折角2θと格子面間隔dで強い回折X線が生じます。得られるX線回折パターンは結晶構造により異なるため結晶相の同定によく使用されています。結晶相の同定以外に結晶相の含有率を定量することもできます。
それぞれの回折ピークの強度比率から結晶方位を解析することもでき、回折ピークのシフト量から残留応力(弾性歪)を定量する事もできます。
また、回折ピークの形状を解析すると転位密度(塑性歪)や結晶子サイズなどを定量する事もできます。
XRDの測定手法
当社のXRD装置では様々な波長のX線源と光学系での測定が可能です。
X線源を変える事により分析深さや角度分解能を変える事ができます。 また、装置の構成(光学系)を変える事によって目的に特化した測定を行う事ができます。
(1)平行ビーム法
- 凹凸の激しい表面でも正確なピーク位置が得られます。
- 試料の表面すれすれにX線を照射すれば表面のみを測定する事ができます。
- 単結晶の結晶方位を正確に測定する事ができます。
凹凸のあるパイプ状試料表面の測定
測定面に凹凸があったり湾曲しているようなパイプの表面であっても平行ビーム法を用いることによりピークの広がりやシフトが起こることなく測定できます。
(2)集中法
- 角度分解能が高くシャープなピークを得る事ができるため結晶構造の異なる複数の結晶相が混在しても区別する事ができます。
- 照射面積が広いため統計精度の高いデータを得る事ができます。
ただし、測定面の凹凸が激しいとピークが正しい位置からずれたり、 ピーク幅が広がるといった問題が生じます。
構成元素が同じ化合物でも、形態の違いを見分けることが可能です。スケール成分を鋼材から採取し、メノウ乳鉢で粉砕後測定しました。
得られた回折パターンとライブラリデータの照合により、スケール成分はFe3O4 (マグネタイト)とα-Fe2O3 (ヘマタイト)からなることが分かります。
化学組成が同じで、結晶構造が異なる結晶多形の分析もXRDなら可能です。TiO2のルチル型とアナターゼ型を混合し測定すると下記の様な結果が得られます。
結晶多型が混在している試料でも、それぞれの構造を判別できることが分かります。
(3)微小部法
- X線を細く絞る事ができるため局所領域を狙って測定する事ができます。
- 試料が微量でもS/N比の良い測定が可能です。
鉱物表面の色が異なる2つの領域について、茶色部はSiO2 (Quartz; 石英)及びNaAlSi3O8(Albite; 曹長石)、白色部はSiO2(Quartz; 石英)であることが分かります。
X線回折法(XRD)の事例
事例1;粉塵の定量分析
従来、X線回折で定量を行うには純物質(標準試料)が必要だったため適用できる物質は限られていましたが、近年ではリートベルト解析により純物質が無くても定量することが可能となりました。弊社では、鉄鋼関連材料の他にも、鉱物資源、セラミックス、環境物質など様々な混合物の定量分析を行っています。
この分析事例では、主成分の鉄は複数の化合物形態で存在しており、SiやAlは結晶及び非晶質の両方として存在していることが分かりました。
事例2;電子基板の分析
一般的なX線回折測定ではcmオーダーの大きさの試料が必要なので微量な試料の測定や微小領域を狙った測定はできませんが、弊社では微小部X線回折法により、mmオーダーの微小な試料を測定することができます。応用分野は微量試料、精密部品、微小な異物や付着物の分析など多岐にわたります。
微小部X線回折により、電子基板中の精密部品1個を狙った測定を行いました。
周辺の材質の影響を受けることなく、1mm程度の部品の結晶相を同定することができました。
事例3;Mg3Si4O10(OH)2の加熱分解挙動(室温~1400°C、He雰囲気)
ヒーターに直接試料を載せる直接加熱方式を利用した温度変化に伴う粉末材料の分解挙動解析を紹介します。不活性ガスHe中でMg3Si4O10(OH)2 を加熱していくと、1000°C付近から分解され MgSiO3に変化していく様子が観察できます。直接加熱方式では高精度な温度管理が可能です。
参考技術資料
関連する技術
関連する分類
表面分析
- 硬X線光電子分光法 (HAXPES)
- 飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)
- グロー放電発光分析(GD-OES)
- 電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)
- X線光電子分光法(XPS)
- 蛍光X線分析(XRF)
- 走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)
- 電子線マイクロアナリシス(EPMA、FE-EPMA)
- グロー放電質量分析法(GD-MS)
形態観察
構造解析
- ラマン分光法
- X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析
- X線回折法(XRD)
- X線残留応力測定
- X線トポグラフィ解析(XRT)
- X線吸収微細構造解析 (XAFS)
- 電子線後方散乱回折法(EBSD)
前処理