電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)

FE-AES:Field Emission Auger Electron Spectroscopy

電界放出形オージェ電子分光分析(FE-AES)とは

電界放出形オージェ電子分光法(FE-AES)は、FE電子銃により試料表面に電子線を照射し、試料表面数nmの深さから放出されるオージェ電子を測定します。そのため、対象物表面の構成元素や元素分布を空間分解能良く取得可能な表面分析法です。不働態被膜の深さ方向分析、材料脆化の原因となる粒界偏析元素や粒界析出物の分析、さらに微小部の化学状態分析も可能です。

電界放出形オージェ電子分光分析装置の外観


電界放出形オージェ電子分光分析装置 アルバック・ファイ SAM680

電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)の特徴

表面凹凸の影響を受けづらい円筒鏡型検出器(CMA)を搭載したアルバック・ファイ製の装置と、高エネルギー分解能測定が可能な静電半球型検出器(CHA)を搭載した日本電子製の装置を保有しております。そのため目的に応じて適した装置を選択可能です。
大気非暴露測定や真空中冷却破断分析、高エネルギー分解能測定に対応可能です。

電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)の適用分野

装置仕様

メーカー アルバック・ファイ株式会社 日本電子株式会社
電子銃加速電圧 1 kV ~ 20 kV 0.5 kV ~ 30 kV
スパッタガン Ar+ Ar+
検出器 円筒鏡型検出器(CMA) 静電半球型検出器(CHA)
その他
  • 破断機構搭載
  • トランスファーベッセルおよびグローブボックスを用いた大気非暴露での試料導入可能
  • 破断機構搭載
  • 化学結合状態分析可能
試料サイズ 最大 40×40×厚み 8 mm (大気非暴露では 20×20×厚み 8 mm) 最大 直径 20×厚み 5 mm

電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)の原理

FE電子銃により試料表面に電子線を照射し、試料を構成する原子の内核に空準位を生じさせることにより発生したオージェ電子の運動エネルギーを測定します。
K殻電子とL殻電子のオージェ遷移により発生するオージェ電子の運動エネルギー(EA)は下式にて求められますが、この値が元素固有の値となるため元素分析が可能となります。オージェ遷移には電子殻に3つ以上の電子が必要なため、原子番号がLi以上の元素が分析できます。

EA =EK(K殻電子のエネルギー準位)ー EL1(L1殻電子のエネルギー準位)
ー EL2, 3(L2, 3殻電子のエネルギー準位)ー φ(仕事関数)


このオージェ電子は表面数nmの深さまでしか脱出できないため、極表面に存在する成分のみ検出し、その比率を算出することが可能です。

FE-AESの原理と装置構成


FE-AES原理図

装置構成図(CMA)

分析メニュー

定性分析 原子番号がLi以上の全元素に対して、検出された元素種と組成比算出が可能 (検出限界は 0.1~1原子%)
元素マッピング分析 ~□200 µm領域の元素分布を取得
深さ方向分析 ~約3 µm深さの元素プロファイルを取得
真空中冷却破断分析 サンプル破面に対する上記分析が可能
化学状態分析 元素の化学結合状態を評価可能
化学状態マッピング ~□200 µm領域の各元素の化学結合状態の分布を取得

電界放出形オージェ電子分光法 (FE-AES)の事例

事例1;微小析出物の分析

対象試料:ステンレス鋼(光輝焼鈍材表面)

元素マッピング分析によりサブミクロンオーダーの元素分布を取得可能です。
(色調の明るい箇所はピーク強度が高く、色調の暗い箇所はピーク強度が低くなります。)
さらにマッピング像中の任意の箇所で定性スペクトルを取得することで、その箇所に存在する元素種とその比率を確認することが可能です。
分析例では、光輝焼鈍材表面にクロム窒化物が析出していることを確認できます。

事例2;同視野での表面元素分布と深さ方向プロファイルの取得

対象試料:ステンレス鋼(光輝焼鈍材表面)

元素マッピング分析により組成の違いを捉え、任意の箇所で深さ方向分析を取得することが可能です。
分析例では、クロムのピーク強度差からα相とγ相を判別し、各相で深さ方向分析を実施することにより、各相ともに酸化膜厚が4 nm程度であること、α相では酸化皮膜中にWが富化していること、γ相では酸化皮膜中にMoが富化していることを確認できます。


※γ相のWは検出下限以下のためプロファイルを表示していません

事例3;大気非暴露測定

対象試料:リチウム化合物試薬

グローブボックス中で試料をサンプルホルダーに固定し、トランスファーベッセルに封入することで、大気非暴露でFE-AES装置内に搬入することが可能です。
分析例では、Li2CO3, Li2O, LiFのオージェスペクトルのピーク形状の違いからリチウムの各状態分析が可能であることを確認できます。

リチウム化合物試薬

事例4;真空中冷却破断分析

対象試料:純鉄(スズ添加)

破断分析用の形状に試験片加工し、FE-AES装置内に導入します。装置内は超高真空になっており、その中で液体窒素により冷却しながら衝撃破断することが可能です。超高真空中で試料を破断することにより、破面の酸化や汚染なく粒界偏析元素等の分析が可能となります。FE-AESの真空中冷却破断分析では、他の物理分析手法のように試料断面から粒界を捉えるのではなく、破面として露出した粒界を捉えます。そのため測定数を稼ぎやすい、明瞭な元素分布を取得可能といった利点があります。
分析例では、粒界破面とへき開面が観察されており、粒界破面でのみスズが面状に検出されていることからスズの粒界偏析による材料の脆化が確認できます。

事例5;化学状態マッピング

対象試料:純銅の酸化皮膜(斜め断面)

スペクトルマッピング機能を使用することにより、化学結合状態別の分布を取得可能です。
分析例では、表面界面切削解析装置(SAICAS)により作製した酸化皮膜の斜め断面での化学状態マッピングを実施しました。僅かなピークシフトから、金属銅(Cu)、酸化第一銅(Cu2O)、酸化第二銅(CuO)の分布を確認できました。

純銅の酸化皮膜

公的規格

注意点

参考技術資料

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