硬X線光電子分光法 (HAXPES)
HAXPES;Hard X-ray photoelectron spectroscopy
硬X線光電子分光法(HAXPES)とは
硬X線光電子分光法(HAXPES)は、試料の表面にX線を照射することによって放出される光電子の運動エネルギーを測定して、対象物の表面の元素分析や非破壊での化学結合状態を解析する表面分析法です。硬X線は入射エネルギーが高いため、従来のX線光電子分光法XPSよりも深い表層領域の元素分析や重複ピークの回避ができるなど、目的に応じた最適な評価解析が可能です。
硬X線光電子分光法(HAXPES)の特徴
当社の装置はCrKα線源(5.4keV)を搭載しており、深さ数十nmまで測定が可能です。不働態被膜をはじめ、触媒表面・界面、リチウムイオン電池電極材料の化学結合状態評価、価電子帯の解析等に用いられます。
また、Al Kα 線源(1.5keV)も搭載しているため、Cr/Al線源同点分析により異なる深さの化学結合状態解析や、角度分解測定、イオンビームスパッタリングによる深さ方向分析が可能です 。
硬X線光電子分光法 (HAXPES)の適用分野
- 電池材料 活物質表面の劣化、遷移金属の価数(酸化の進み具合)など
- 透明導電薄膜 非晶質酸化物半導体層の平均価数の評価など
- 触媒表面 触媒粒子表層の酸化・硫化状態など
- 金属セパレータ耐食性と導電性を備える窒化処理の状態など
硬X線光電子分光法(HAXPES)の原理
分析原理はXPSと同じです。特定のエネルギーを有したX線(hν)を物質表面に照射し、そこから放出された光電子の運動エネルギー(EKIN)を測定し、その電子が原子に束縛されていた結合エネルギー(EB)を求めます。
EB=hν-EKIN-φ
このEB値は元素固有であり、さらに元素の化学結合状態によりわずかに変動(ケミカルシフト)することを利用して、化学結合状態の解析が可能です。また、光電子の強度はその元素の濃度と比例しているため、構成元素の比率を求めることができます。HAXPESでは、高エネルギーX線を使用するため、より深い領域まで分析が可能です。また、原子レベルでは、1s軌道等、強く束縛されている電子も分析する事が可能です。
HAXPESの装置構成図
XPSとHAXPESの違い
装置仕様
メーカー型式 | PHI Quantes | |
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X線源 *二線源の同点照射可能 |
Al Kα線源 | ビーム径:7.5μmφ |
Cr Kα線源 | ビーム径:14μmφ | |
分析面積 | 100 μm~1 mm 程度 | |
スパッタガン | Ar+、 Ar-GCIB | |
真空度 | ~10-8 Pa | |
試料サイズ | 最大70 × 70 × 厚み 18 mm * トランスファーベッセル用は 最大 50mmΦ |
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その他 | トランファーベッセルおよびグローブボックスを使った大気非暴露での試料導入可能 |
- 分析メニュー
硬X線光電子分光法 HAXPESの事例
事例1;HAXPESでは測定可能な内殻準位がXPSよりも多いことによる利点
●対象試料;Al板材
硬X線の励起によって、XPSに比して内殻電子まで励起できます。下記事例では、HAXPESでのみAl1sピークが検出され、化学状態解析、ピークの重畳回避等に活用されます。
事例2;HAXPESでは分析深さがXPSよりも深いことによる利点
●対象試料;Ti板材
XPSに比して分析深さが深いため、最表層の下層(皮膜内部や界面、基板など)までエッチング無しで化学状態解析が可能になります。
事例3;二種の励起X線(硬X線と軟X線)を自由に選択できる利点
●対象試料;NiO粉末
XPSとHAXPESの検出深さの違いを用い、XPSによる最表面の情報を分離して評価。
531.5 eV付近の肩ピークはXPSでのみ検出される。これにより、最表層にのみ水酸基が存在することがわかる。
注意点
- 超高真空下で分析を行う為、固体サンプルが対象です。
- 二次汚染回避のために、アルミホイルの裏で包んでのご送付を推奨しています。
- 粉末はスパチュラ3杯以上をご用意ください。
- 多孔質体等、脱ガスのあるサンプルの場合、サンプルサイズは小さくする必要があります(ご相談可能)。