X線吸収微細構造解析 (XAFS)
XAFS;X-ray Absorption Fine Structure
X線吸収微細構造解析 (XAFS)とは
X線吸収微細構造; XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)はX線吸収分光の一種で、試料のX線吸収スペクトル(XAFSスペクトル)を測定・解析する事で、価数や局所構造を元素選択的に評価できる分析手法です。
XAFSの測定手法と特徴
- 高感度に元素価数評価が可能な分析手法です。
- 価数(電子状態)に加え、局所構造(配位数、原子間距離)も同時に評価する事が可能なため、化学結合状態の精密な解析が可能です。
- XAFSスペクトルの測定手法を選択する事により、微量元素の価数評価や、表面構造の解析が可能です。
- 試料の状態や環境を問わず分析が可能です。(例:非晶質、溶液など)
- 試料雰囲気制御下での測定(in situ, operand)や、マッピング測定(STXM等)が可能です。
測定手法 | 用途 | 試料形態 | 検出深さ |
---|---|---|---|
透過法 | 平均情報取得 | 粉末、箔、液体、気体 | 試料全体 |
蛍光法 | 微量元素、膜膜分析 | バルク、薄膜、液体 | μmオーダー * |
電子収量法 | 表面状態の分析 | バルク、薄膜(要導電性) | μmオーダー * |
X線吸収微細構造解析 (XAFS)の適用分野
- 金属、無機材料: 原料中の含有元素価数評価、腐食生成物の構造解析など
- 半導体: 微量ドーパントの価数解析など
- 電池: 正極材の化学結合状態解析、充放電中の価数や元素配位状態解析など
- 触媒: 触媒反応表面の構造解析、コアシェル構造解析など
- 環境: 土壌中の含有元素価数評価など
XAFS法の原理
XAFSスペクトルを得るには、試料に照射するX線のエネルギーを、測定元素の吸収端前後で連続的にスキャンしながらX線吸収量(μt)を測定します。そのため、測定には高輝度な連続X線が使用可能な放射光を用います(Photon Factory、あいちSRセンター、SPring-8等)。
※吸収端:元素(電子の軌道)に固有のエネルギー。吸収スペクトルの立ち上がり部分に相当。
XAFSスペクトルのうち、吸収端近傍の領域(XANES)を解析する事で、電子状態(価数や化学結合)の解析ができます。また、高エネルギー側の領域(EXAFS)を解析する事で、局所構造(原子間距離、配位数)に関する情報が得られます。
X線吸収量(μt)の測定 [透過法]
XAFSスペクトル(X線吸収スペクトル)で得られる情報
X線吸収微細構造解析 (XAFS)の事例
事例1;酸化鉄の還元反応解析
- in situ XAFS測定により、酸化鉄の還元反応中の化学状態解析を行った事例です。
- 還元の進行に伴い、スペクトルの形状(=化学状態)が徐々に変化する様子が観察できています。
- スペクトルのフィッティングにより試料中の各価数成分を分離・抽出し、その量比から還元率を求めました。
[測定条件]
- 試料: α-Fe2O3
- 還元ガス: H2(100%)
CO(100%) - 還元温度: 900°C
- 測定元素: Fe K吸収端
- 測定法: 透過法(QXAFS)
Feの化学状態
FeK端XAFSスペクトルの変化
事例2;クロメートの化学状態解析
- 二種のクロメート処理鋼板表面のXAFS測定を行い、表層皮膜中のCrの価数を評価した事例です。
- クロメートaには、6価クロム特有のプリエッジピーク(図1中赤矢印)が明瞭に観察されました。
- 価数標準試料を使用したスペクトルの線形結合フィッティングにより、スペクトルから6価及び3価成分を分離・抽出し、6価クロム量の半定量分析を行いました(図2)。
- 動径構造関数の解析により、クロメートaには6価クロム特有の、Cr周囲に酸素が四面体配位した結合状態の存在が確認できました(図3)。