ラマン分光法

ラマン分光分析とは

ラマン分ラマン分光分析は試料にレーザー光を照射した際に発生するラマン散乱光を検出することで、試料の化合物状態や結晶構造に関する情報を得る分析手法です。レーザー光は1μm程度まで集光しているため、例えば、腐食生成物の様に複雑な空間分布をもつ被膜でも評価可能です。また、窓材越しに密閉容器内の試料も容易に分析可能であるため、種々のIn-situ分析にも対応できる分析手法です。

ラマン分光分析装置

ラマン分光分析の特徴

ラマン分光分析は試料中の化学結合や結晶格子の振動などに対応する情報が得られる手法で、有機物や無機物、液体や固体などの様々な試料の分析に対応可能です。類似の分析手法である赤外(IR)分光分析とは相補的なデータを取得可能で、 IRに比べてラマン分光分析の方が空間分解能が高く、無機物の分析に強いという特徴があります。

ラマン分光分析の適用分野

ラマン分光分析の原理

ラマン分光分析では、レーザー光を試料に照射した際に発生するラマン散乱光(レーザー光とは僅かにエネルギーが異なる光)を検出します。レーザー光とラマン散乱光のエネルギー差(Raman shift)を横軸にとったラマンスペクトルを取得し、そのピーク位置から化合物形態や結合情報、ピーク幅から結晶性、ピーク強度比から配向性や濃度比、ピーク位置の僅かなシフトから応力や歪を評価可能です。また、レーザー光は対物レンズで集光するため、局所領域での分析が可能であり、試料ステージを走査することで2次元や3次元のマッピング分析も実施できます。さらに、使用する可視光レーザーは透過性が高いため、透明な分光窓があれば密閉容器内の試料でも分析可能で、雰囲気制御型セルや充放電セルを用いたIn-situ分析にも応用可能です。

ラマン分光分析の装置構成

ラマン散乱の概要

ラマン分光分析から得られる情報

装置仕様

レーザー波長 458 nm、532 nm、633 nm、785 nm
空間分解能 1~2 μmφ
試料サイズ 50 mm×50 mm×20 mmt 以内
*重量500g 以内
*サイズを超える試料については要相談
オプション ・温湿度制御セル;-190°C~600°C、室温~1500°C
・充放電試験用セル
・オリジナルの雰囲気制御セルの設計

ラマン分光分析の事例

事例1;ラマンマッピング分析による腐食皮膜の構造解析

鋼板表面に生成した腐食皮膜の断面試料を作製し、ラマンマッピング分析によって皮膜の構造解析を実施しました。腐食皮膜中で各種オキシ水酸化鉄(α,β,γ-FeOOH)とスピネル型酸化物(Fe3O4等)が検出されており、その分布が明瞭に可視化されています。これまでの腐食皮膜の分析では、XRDによる化合物の同定と元素分析結果を組み合わせて各種腐食生成物の分布を推定してきましたが、ラマン分光分析では直接的に化合物の分布を評価することが可能です。


腐食皮膜断面の化合物分布と各腐食生成物のラマンスペクトル

 

事例2;炭素材料の構造解析

炭素材料は非常に多様な構造形態を取りますが、その情報はラマンピークの形状に敏感に現れます。このピーク形状から、炭素材料の種類を推定することができるだけでなく、波形分離解析を実施することでGピークとDピークの強度比、およびGピークのピーク幅を求めることで、炭素材料の結晶性や構造の乱れ(黒鉛化度)を評価することができます。


各種炭素材料のラマンスペクトルと波形分離解析例

 

事例3;ラマン分光分析法による樹脂の評価

ラマン分光分析は樹脂やゴム、プラスチックなどの種々の有機材料も評価可能です。有機材料の分析手法として広く用いられている赤外分光分析とは相補的な結果が得られます。また、赤外分光分析に比べて空間分解能が高いため、微小領域における有機材料の変質がどんな化学結合の変化に由来しているかなどを推察することができます。


各種樹脂材料のラマンスペクトル

 

事例4;環境制御セルを用いたその場ラマン分光分析

ラマン分光分析では透明窓を有する密閉容器内の試料でも分析可能です。この特徴を活かして、試料温度や分析雰囲気(湿度など)を変化させるセルを用いることで、温湿度制御下での試料の継時変化を分析することが可能です。また、ニーズに合わせたオリジナルのセルを設計・製作することで、様々な腐食環境等を模擬しながら腐食過程中の生成物についてその場分析を行うこともできます。


環境(温湿度)制御セルの外観写真と内部構造概要

 

事例5;電池材料のIn-situラマン分光分析(現在技術開発中)

ラマン分光分析はリチウムイオン電池に代表される電池材料の分析にも非常に有用です。当社では、電池解体後に大気非暴露で分析を行うEx-situ分析用の密閉容器だけでなく、充放電試験中の電極材料の構造変化をリアルタイムで分析するIn-situ分析用のセルも保有しています。当社のセルはリチウムイオン電池の電極表面、および断面の分析に対応しているとともに、セル内部の温度制御機構や参照極を用いた3極セルとしても使用可能な構造をとっています。


リチウムイオン電池のIn-situラマン分光分析用セルの外観写真

事例6;顕微ラマン分光を用いたSiCウェハ表面のダメージ評価

SiCをはじめとするワイドギャップ半導体の普及が拡大していく中、単結晶インゴットから切断加工してウェハを作製するプロセスの高速化が求められています。切断加工時にウェハへ残留するダメージは後のプロセスを効率よく進めるためにも極力小さい事が求められます。このダメージ評価方法の一つである顕微ラマン分光法は、数μmレベルの局所領域を評価することが可能です。本事例では、SiCウェハの加工ダメージを模擬した試料を作製し,顕微ラマン分光法を用いて評価した結果をご紹介いたします。

・分析方法

市販4H-SiCウェハーに、切断加工を模擬したダメージを導入しました。顕微ラマン分光分析には、励起波長532nm、倍率100倍(NA=0.90)にて深さ方向のライン分析を行いました。

分析領域の光学顕微鏡像

・分析結果

下左図は4H-SiCに特徴的なピーク(776.5 cm-1)のシフト量を、下右図は同様にピークの半値幅をカラースケールで表示しました。縦軸はSiCウェハの深さに相当する量を示し、0が表面、マイナス方向が深部に向かう方向です。

ピークシフト量は、一軸応力を仮定した場合、暖色系は圧縮応力、寒色系は引張応力が残留しているとみなすことができ、ダメージ部にはさまれた領域には引張応力が、その両側の領域には圧縮応力が存在していることが確認できました。さらに、深さ方向への影響も確認することができます。一方,半値幅の広がりは、一般的には結晶性の低下と相関があり、引張応力領域で結晶性がより大きく低下していることがわかりました。

 

 

参考技術資料

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