X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析
X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析とは
X線回折法(X-ray diffraction: XRD)で得られる回折ピークの形状を解析して材料の転位密度や結晶子サイズなどを非破壊で解析する技術(XRDラインプロファイル解析)をご紹介します。
転位とは
転位は結晶内に存在する図1の様な線状の欠陥であり、加工によって増加し金属材料の強度に大きな影響をもたらす事が知られています。転位にはそれ以外にも析出物の核生成サイトになったり、異元素をトラップしたり、原子の拡散を加速させたりする性質があります。そのため転位密度の測定は「金属材料の強度向上メカニズムの解明」「部品の破壊原因調査」「構造材料の余寿命予測」「異元素の拡散メカニズムの解明」など様々な分野で活用されています。
X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析の特徴
- 転位密度、結晶子サイズ、転位キャラクター(らせん転位と刃状転位の割合)、転位の配列(転位双極子形成の有無)を測定する事ができます。
- 微小部XRDで部品や微小引張試験片などの微小領域を狙って転位密度を測定したり、ローラーなどの湾曲面の転位密度を測定することも可能です。
- X線源により分析深さを選択する事ができます。(純鉄での分析深さはCuKα線 の時 4~9μm、CoKα線の時 23~45μm)
- 電解研磨とXRD測定の繰り返しにより転位密度などの深さ方向分布を測定する事が可能です。
X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析の適用分野
材料 | 炭素鋼、ステンレス、ニッケル、銅、プラチナなど ※カーボンやプラスチックなどの有機物は結晶子サイズ測定に限られます。 |
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形状 | 板、パイプ、棒線、試験片(クリープ、引張、疲労)、粉末など |
※測定試料の材質・形状・サイズに応じて、装置や手法の使い分けを行いますので、事前にご相談ください。
装置仕様
装置メーカー | リガク、マルバーンパナリティカル |
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測定法 | 集中法、微小部法 |
X線源 | CuKα線、CoKα線 |
X線照射領域 | 約2mmφ~約15mm角 |
分析深さ | 数μm~数十μm |
検出器 | 半導体1次元、2次元検出器、シンチレーションカウンター |
X線回折法(XRD)を用いた転位密度、結晶子サイズ解析の原理
結晶内に転位が存在すると原子配列のひずみ場でX線の回折方向が分散され回折ピークの幅が拡がります(図2参照)。この現象を利用して古くからWilliamson-Hall法で転位密度と結晶子サイズを定量する試みがされてきましたが、鉄鋼材料の様にひずみの異方性(ひずみ量が結晶方位ごとに異なる性質)が大きい金属材料への適用は困難でした。
当社では、新規法(modified Williamson-Hall/Warren-Averbach法)を適用することで異方性の高い金属材料であっても転位密度を高精度で定量することが可能です。
従来法と新規法/当社独自技術の比較
表1に従来法(Williamson-Hall法)と新規法(modified Williamson-Hall法/Warren-Averbach法)および当社の独自技術(μXRD-modified Williamson-Hall/Warren-Averbach法)の比較を示します。
従来法は試料から得られたXRD回折ピークの位置と半値幅をパラメーターとするのに対し、新規法はピーク形状や弾性率も使用する点が異なります。
アウトプットについては、従来法では転位密度と結晶子サイズの2種類しか求めることができませんでしたが、新規法では新たに転位の配置(転位双極子の有無など)や転位キャラクター(らせん/刃状転位の割合)も求める事が可能となり、転位の減少が加工と熱のどちらに起因していたのかなどの新たなメカニズム解明に関する考察も可能となりました。
また、当社の独自技術によりCCDカメラで微小引張試験片などの微小領域を狙って転位密度を測定したり、ローラーなどの湾曲面の転位密度を測定することがラボのXRDで可能となりました。
表1 従来法と新規法/独自技術の比較表
WH:Williamson-Hall、mWH/WA:modified Williamson-Hall/Warren-Averbach、μXRD:微小部XRD
注)曲面での転位密度測定の精度は湾曲率によって異なりますので事前にご相談下さい。
X線回折法(XRD)を用いた転位密度の測定事例
事例1;SUS316冷延材の転位密度測定
冷延前後のSUS316をXRD測定すると回折ピークの幅は図4に示す様に冷延後の方が広くなります。回折ピークを modified Williamson-Hall/Warren-Averbach法で解析すると転位密度と結晶子サイズが算出され、冷延によって転位密度が増加、結晶子サイズが減少している事が分かります。
事例2;微小部XRDを使用した転位密度測定
ボールミリングの時間を変化させた鉄粉について、集中法(通常の測定法)と微小部法でXRD測定しmodified Williamson-Hall/Warren-Averbach法で解析して比較しました。
X線照射領域は、集中法(通常の測定法)では約15mm角、微小部法では約2mmφと異なりますが、どちらの手法でもミリング時間の増加に伴い転位密度が増加してる傾向がわかりました。また微小部XRDでも結晶子サイズ、転位配置、転位キャラクターの算出が可能です。
投稿論文
- 微小部XRDによる湾曲試料のX線ラインプロファイル解析の適用限界
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-109 - ボールミリングによる純鉄粉末のミクロ構造変化~X線ラインプロファイル解析およびTEM観察~
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-103 - 熱延鋼板(SPHC)へのグリットブラスト加工による表面硬化の微視的研究
https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2022-123
参考技術資料
- HRM-0404 X線回折法による結晶子サイズの測定(Sherrer法)
- FTM-1621 透過電子顕微鏡(TEM)による転位密度測定)
- FTM-1617 X線トポグラフによるIII-V族窒化物結晶の結晶欠陥評価事例
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表面分析
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