走査型プローブ顕微鏡(SPM)
SPM;Scanning Probe Microscopy
走査型プローブ顕微鏡(SPM)とは
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、極微細な探針(プローブ)を用いて試料表面のナノメートルサイズからマイクロメートルサイズまでの表面凹凸形状や機械物性、電気・磁気物性を測定する装置です。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の外観
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の特徴
- ご要望が多い比較的大きな試料(直径100mm×高さ20mm)に対応した装置です。
- 最大200μm×200μm領域の測定が可能です。
- 多彩な分析モードを備えています。
- 同じ測定位置に対して走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、オージェ電子分光分析器などを組み合わせた多面的調査が可能です。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の適用分野
固体試料の表面に対して
- 大気中での数100倍~10万倍相当の表面形状測定
- 微小部の各種電気物性測定
- 表面微小部の各種機械物性測定
- 微小部の磁性分布測定
装置仕様
装置名 | 日立ハイテクサイエンス AFM5500M | |
---|---|---|
測定可能領域 | 試料ステージ(直径100mm)全面 | |
最大走査範囲 | 200μm×200μm (ステージを動かさずに測定可能な範囲) | |
測定環境 | 大気中・常温・常湿 | |
測定モード | 形状測定 | 原子間力顕微鏡 |
機械物性 | 位相、摩擦力、 フォースカーブマッピング | |
電気物性 | 電流分布、抵抗分布、 表面電位、圧電応答 | |
磁気物性 | 磁性マッピング |
サンプル仕様
- 大気中・常温(約30°C)・常湿(20%~40%)環境で24時間程度変質しないこと
- 直径:100mm以下
- 高さ:20mm以下
- 重量:2kg以下
- 測定面と試料ステージに接する面がほぼ平行であることが望ましい
SPM/AFM(原子間力顕微鏡)の測定原理
SPM測定は、原子間力顕微鏡(atomic-force microscopy:AFM)を基本としています。
AFM(広義)の原理: 探針とサンプル間の距離が一定になるように圧電素子のZ軸を上下させながら表面を走査(XY軸)し、その時に圧電素子に掛けた電圧を画像化することで凹凸形状像を得ます。探針とサンプル間の距離を測定する主な方法にはコンタクトモードとダイナミックモードがあります。それぞれを測定目的に応じて使い分けます。
コンタクトモード(AFM)の動作
コンタクトモード (AFM:atomic-force microscopy )
探針の先端を試料表面に接触させる。探針とサンプル間の距離はカンチレバーの反りの変化を検知することで得る。(狭義のAFM)
→探針とサンプルが常に接触している
測定目的:摩擦力、電流・抵抗分布、機械物性
ダイナミックモード(AFM)の動作
ダイナミックモード (DFM:dynamic-force microscopy )
カンチレバーを共振させて、試料表面に接近させる。探針とサンプル間の距離はその共振周波数の変化を検知することで得る。
→探針とサンプルは間欠的に接触する
測定目的:位相像、表面電位分布、磁気力分布
走査型プローブ顕微鏡(SPM)の事例
事例1;形状測定(DFM):Dynamic-Force Microscopy
- 数μm□~約100μm□の表面についてnmオーダーの高さ情報を伴った形状像を取得します。
- 測定後に3D表示や面粗さ・線粗さ解析、断面プロファイル解析が可能です。
- 透明な試料でも測定可能です。湾曲した試料も頂点部で測定可能です。
形状測定例1:ステンレス鋼板表面
光輝焼鈍処理を行ったステンレス鋼板の表面粒界部
形状測定例2:アクリル樹脂粉末(球)
アクリル樹脂粉末(透明粒子)の形状測定
事例2;電流同時測定AFM(CPAFM):Conductive-Prove Atomic Force Microscope
- 試料表面の電流が流れ易い箇所/流れにくい箇所を可視化します。
- 導電性コート(Au, Rh, BドープDLC等)探針を用いて、試料にバイアス電圧を印加したまま平面方向に走査し、探針・試料間に流れる電流を検出して、形状像と共に電流分布を観察します。さらに、得られた電流分布像中の任意の箇所で電流電圧特性(I/Vカーブ)を取得できます。
- 電流測定範囲:10 pA ~ 0.1 μA (印加電圧最大10 V 抵抗値約10^6 Ω~10^12 Ω) ・最小分析点:30 nm~約300 nm (プローブ先端径と測定条件による)
- 電流像の色調は疑似カラーです。ご要望に応じて変更可能です。
CPAFMの測定原理
形状測定例:溶接スラグの導電パス調査
断面試料を作製し、基材をアースして電流分布像を測定。
反射電子像で明るい部分と電流分布像の明部が対応しており、組成の差により電流の流れ易さが異なることが示唆されます。
事例3;摩擦力顕微鏡(FFM): Friction-Force Microscope
- 表面の摩擦力大小の分布を可視化します。
- カンチレバーがねじれる方向に試料を走査して、探針と試料間に働く摩擦力をカンチレバーのねじれ量に変換して検出し、形状像と摩擦像を同時に観察します。
- FFM像取得時は一方向のみの走査のため、表面凹凸に影響されます。そのため、 往復走査で信号を取得するフィリクショナルカーブ測定で摩擦力の大小を確認します。
- 水平方向の微小振動を加えながら測定することで表面凹凸の影響を軽減するLM-FFM(Lateral Modulation-FFM)法もあります。
FFMの測定原理
FFM測定例1:球状黒鉛化鋳鉄断面
黒鉛部分の摩擦が大きい傾向が認められました。
FFM測定例2:表面処理が施された食品用ポリスチレンシート表面
数μm□領域の微細な摩擦力分布を測定できます。
摩擦力の高い部分が微細な海島構造を有していました。
事例4;磁気力顕微鏡(MFM):Magnetic-Force Microscope
- 磁性材料の磁区分布観察や、非磁性材料中の磁性を帯びた領域の分布調査に 用いられます。
- 磁性探針を用いて測定します。磁性探針と試料に作用する磁気的作用(引力・斥力)をカンチレバー振動の位相変化として検出し、画像化します。実際に検出されるのは磁気力勾配です。
- 最小分解能:約30 nm
MFMの測定原理
MFM測定例1:フェライト系ステンレス鋼の磁区分布
MFM測定例2:非磁性材料(SCH24相当材)中の磁化領域調査
非磁性のオーステナイトステンレス鋼にわずかに磁性が認められたため、その磁性がどこで生じているか探索しました。断面試料についてMFM測定を実施した結果、析出物の周囲に磁性領域を検出しました。TEM観察にて、析出物はCr炭化物であり、磁性領域にCr欠乏層を確認しました。