水素透過試験

水素透過試験とは

水素透過試験は、鋼材表面に吸着し鋼材中を拡散・透過する水素の透過速度を電気化学的に求めることで、見かけの水素拡散係数や表面水素濃度を求める試験です。
近年の鉄鋼材料の高強度化に伴い、鋼材に侵入した水素による水素脆化が懸念されています。水素脆化に関与するのは常温で移動しうる拡散性水素と言われており、この拡散性水素による水素侵入挙動を把握することは非常に重要です。
ラボでの試験では水素侵入環境を比較的容易に変えることができるため、環境因子の影響なども検討可能です。また実腐食環境の評価として、曝露試験やCCT試験と組み合わせた評価も可能です

水素透過試験の適用分野

水素透過試験の原理

■Devanathan1)らが確立した電気化学的水素透過法を利用した測定

0.5mm程度の薄板を用い、予め水素検出面となる試料表面にNiめっきを施し、セルにセットします。Niめっき側の水素検出側セルには1mol/L NaOHを注ぎ入れ、鋼材中を拡散・透過してきた水素原子を遅延なくイオン化(H→H+ + e-)できる定電位に保持します。

一方、反対側の水素チャージ側セルには、試料表面で水素を発生させるための硫酸溶液、触媒毒を添加したNaCl溶液などを注ぎ入れ、自然浸漬・定電流電解によって鋼材中に水素を侵入させ、検出側で水素透過電流を測定します。

この水素透過電流の経時変化、定常電流値から見かけの水素拡散係数、表面水素濃度などを算出します。


図 電気化学的水素透過法測定セル模式図

参考文献

  1. 1)M.A.V.Devanathan and Z.Stachurski, Proc.Roy.Soc.London, Ser.A.270,90(1962)
  2. 2)櫛田隆弘:材料と環境,49,195-200(2000)

装置仕様


図 実験状況例

サンプル仕様

水素透過試験の事例

事例1;軟鋼の水素透過電流測定例

水素チャージ側でカソード定電流電解をおこなうと、試料表面の水素濃度が変化し水素検出側に電流変化が計測され、時間経過とともに検出される電流は一定値に漸近する傾向を示します(図中赤線)。またチャージ側の定電流値(図中青線)を小さくすると検出電流が減衰していく挙動が得られ、これら一連の透過電流の経時変化から水素拡散係数の算出が可能です。


図 軟鋼の水素透過電流測定例

事例2;見かけの拡散係数測定例2)

水素透過試験で得られた透過電流を解析し、見かけの拡散係数の鋼種比較を実施例。

高強度鋼ほど拡散係数が小さくなる傾向が見られます。


図 見かけの拡散係数に及ぼす強度の影響2)

 

参考文献 2)櫛田隆弘:材料と環境,49,195-200(2000)

公的規格

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