水分の分析
水分の分析とは
水分量を正確に把握することは、樹脂、化成品(接着剤、塗料等)、原料、医薬品、食品などの多くの材料にとって必要不可欠です。水分測定方法には、JIS K 0068「化学製品の水分測定方法」に記載されている(1)カールフィッシャー法、(2)乾燥減量法に加えて、(3)昇温脱離ガス分析法(TDS)(4)熱重量・示差熱同時測定法(TG-DTA)などがあります。
1.カールフィッシャー法
カールフィッシャー法の特徴
- 定量範囲、適用範囲が広い。
定量範囲 0.01~100 %(液体試料は0.001~100%w/w )
適用範囲 液体・粉体・固体(付着水・化合水・結晶水) - 微量水分測定法として有利 μg単位の水の測定が可能
- 各種公定試験法に準拠
- 水分気化装置と組み合わせることで、付着水及び結晶水(化合水)の分離定量が可能
*付着水:粉粒体表面に付着している自由水及び吸着水
*結晶水(化合水):結晶中に一定の化合比で含まれている水(水和物)
カールフィッシャー法の原理
電流を流し発生したヨウ素が水分と選択的に反応し、消費したヨウ素を電気量から水分量を計算します。測定法には、電量滴定法と容量滴定法の二種類があります。
電量滴定法は特に、微量水分を測定に有効です。
また、試料導入方法には、(1)直接滴定法と(2)水分気化法があります。
直接滴定法
滴定溶剤に溶ける溶液に適用します。シリンジに試料を採取し、直接電解セルへ打ち込みカールフィッシャー滴定をします。
<測定実施例>
原油・石油製品、プロピレングリコール、n-ヘキサン、グリース、不凍液、
アルコール類、ケトン類 等
水分気化法(付着水、化合水・結晶水)
水分気化法は固体物質や妨害物質を含むような試料に対する測定方法です。
乾燥した窒素ガス気流中で試料を加熱して水分を気化させ、カールフィッシャー滴定をします。付着水を取り除く事により、化合水や結晶水も測定出来ます。
<測定実施例>
鉱石、岩石等の天然物、電池材料、ポリマーやゴムなどの高分子製品等
★吸湿性試料の場合、グローブボックス内での試料採取が可能です。ご相談下さい。
装置仕様
カールフィッシャー水分計:日東精工アナリテック製 CA-200
水分気化装置:日東精工アナリテック製 VA-122
温度範囲:~1000°Cまで昇温可能
キャリアガス:窒素
カールフィッシャー法の適用分野
- 化学工業試薬・製品
- 原料、鉱物、セラミックス
- 医薬品
- 食品
- 油脂、石油製品
必要試料量目安
- 固体・粉体 10 g 、液体 20 mL
公的規格
- JIS K 0113 電位差・電流・電量・カールフィッシャー滴定法通則
- JIS K 0068 化学製品の水分測定方法
- JIS K 2275 原油及び石油製品-水分試験方法
- JIS C 2101 電気絶縁油試験方法
- JIS M 8211 鉄鉱石中の化合水定量方法
- 日本薬局方、ISO、ASTM等、各種あり
カールフィッシャー法の事例
事例1;直接滴定-カールフィッシャー電量滴定法による溶液試料中水分測定
表1.液体試料中の水分測定
試料名 | N数 | 分析値(%w/w) | 範囲(%w/w) |
---|---|---|---|
高真空ポンプ油 | 5 | 0.001 | 0.0003 |
油圧作動油 | 5 | 0.002 | 0.0002 |
アセトン | 2 | 0.081 | 0.0003 |
クロロホルム | 5 | 0.004 | 0.0001 |
酢酸エチル | 2 | 0.018 | 0.0002 |
事例2;水分気化-カールフィッシャー電量滴定法による化合水(結晶水)測定
表2.鉄鉱石中の化合水測定(950°C)
試料名 | 認証値(%w/w) | 分析値(%w/w) | |
---|---|---|---|
JSS851-4 | 焼結鉱 | 0.09 | 0.08 |
JSS803-4 | ハマスレー赤鉄鉱 | 1.78 | 1.74 |
JSS821-1 | オーストラリア褐鉄鉱 | 9.16 | 9.14 |
その他測定例:PET樹脂(230°C)、エポキシ樹脂(120°C)、アルミペースト(110°C)、ベントナイト(800°C)
2.乾燥減量法
乾燥減量法の特徴
- 加熱に安定な固体・粉体試料に適用される。鉱石、地金、原料、セラミックス等
- 水以外の揮発性物質又は加熱による化学変化で生成した揮散する物質も水分として定量されるので注意を要する。
乾燥減量法の原理
試料を約105°Cで恒量になるまで加熱乾燥し,乾燥後の減量を量り,その量を水分とする。
試料情報
- 加熱に安定な固体・粉体試料
- 大きな結晶又は塊の場合は,粉砕して粒径2mm以下にして試料とする。
粉砕時、大気中からの吸湿や水分損失がないように注意する必要あり - 必要試料量目安 固体・粉体 50 g以上
土壌や鉱石、各種セラミックス等に含まれる揮発性物質(主に有機物)の質量を把握したい場合は、強熱減量(ig-loss)試験が行われます。
強熱減量試験は、マッフル炉などによって試料を高温で加熱することによる質量の減少率から算出されます。対応可能ですので、ご相談ください。
公的規格
- JIS K 0068 化学製品の水分測定方法
JIS、日本薬局方、ISO、ASTM等、各種あり
3.昇温脱離ガス分析法(TDS)
昇温脱離ガス分析法(TDS)の特徴
- 水分等の放出ガスの発生温度および発生量が得られる。
- 室温、高真空中下で固体状態を維持する物質に限る。測定可能となる真空減圧下( 1×10-6Pa程度)到達までに蒸発する成分については測定が出来ない。
昇温脱離ガス分析法(TDS)の原理
高真空中に保持した試料を加熱する事で放出されるガス成分を、四重極質量分析計(Q-mass)で測定し、質量スペクトルのプロファイルを解析する事により材料中の水分等の発生温度と発生量が得られる。
試料情報
- 真空中加熱時に安定な固体・粉体試料
- 約20mm×12mm×30mm以内(Φ22mm×30mm以内)
- 大きな結晶又は塊の場合は,粉砕して試料とする。
関連技術情報
昇温脱離ガス分析法(TDS)の事例
TDSによる鉄酸化物試料中の水分(m/z 18)測定事例
表. TDS法とカールフィッシャー法による鉄酸化物Fe2O3・1H2Oの水分量測定比較(※)
水分量(TDS測定) | 水分量(カールフィッシャー法) |
---|---|
7.96% | 7.96% |
4.熱重量・示差熱同時測定法(TG-DTA)
詳細は示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)をご参照ください
参考技術資料
関連する技術
- 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)
- 誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)
- 無機分析
- 重量法、容量法(滴定法)
- 原子吸光分析法(AAS)
- ガス成分分析
- イオンクロマトグラフ法(IC)
- キャピラリー電気泳動法(CE)
関連する分類
無機分析
- 誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)
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- 原子吸光分析法(AAS)
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- イオンクロマトグラフ法(IC)
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有機分析
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- 示差熱天秤-質量分析法 (TG-DTA/MS)
- 顕微フーリエ変換赤外分光光度法(μ-FT-IR)
- ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)
- 電界脱離質量分析法(FD-MS)
- 電子スピン共鳴法(ESR)
ガス分析
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- 昇温脱離ガス質量分析(TDS)
- ブローホールガス分析
- 真空紫外-1光子イオン化-飛行時間型質量分析計(VUV-SPI-TOFMS)
- ガスクロマトグラフ(GC)法(TCD・PDHID)による無機ガス分析
- 物質収支試験
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