ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)

GC-MS: Gas Chromatography-Mass Spectrometer

ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)とは

ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)とはガスクロマトグラフと質量分析計からなる装置を用いる分析手法です。複数の成分で構成される試料が、まずガスクロマトグラフで分離されます。次に分離された成分毎に質量分析計へ導かれ、質量スペクトルを得ることで成分の定性および定量を行います。<br>
また、試料導入部に試料をガス化する機能(熱分解装置・パイロライザー)を付加し、温度条件等を制御しながら測定することで、試料の熱分解挙動と関連させながら、各種材料に対して様々な解析を行うことも可能です。

質量スペクトル例

ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC-MS)の適用分野

ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC-MS)の原理

主にHeガス等をキャリアーとして導入されたガス試料は、クロマトグラフ(GC)によって各成分に分離されます。GC部で分離された試料分子は質量分析計(MS)に入り、イオン源でイオン化され、質量分析部で質量スペクトルを取得します。
試料導入部にパイロライザーを備えたGC-MSでは、各種カラムと組み合わせて様々な分析を行うことができます。

(1)加熱発生ガス成分の同定

パイロライザーと質量分析計をポリジメチルシロキサン等の液相を有する分離カラムで接続し、試料を加熱した際に発生する成分を同定します。

(2)発生ガス分析(EGA-MS法)

カラムを不活あ性金属キャピラリー管に変更し、昇温時に発生するガスを直接MSに導入することにより、ガスの発生状況を調査することが可能です。

1050°Cまで昇温可能なパイロライザーを用いたGC-MS分析にも対応しています。

上記は疑似エアー雰囲気下でタバコの葉を試料として導入し、瞬時に加熱させた時の測定結果です。パイロライザーの設定温度は、それぞれ、600°Cおよび1000°Cです。両者の違いは明確で、600°C加熱下では酢酸等複数成分が検出されていることに対して、1000°C加熱下では二酸化炭素しか検出されておりません。このように、高温下での燃焼を想定した加熱発生成分の分析が可能です。

装置仕様

イオン化法 EI(電子衝撃)法、CI(化学イオン化)法等
拡張分析 MS/MS分析、MS/MS/MS分析
アクセサリー MSTD発生ガス捕集装置 ジーエルサイエンス製 加熱温度:室温~450°C、昇温機能付
チャンバー:石英製
(内寸 100mmφ×H50mm、110mm角)
サーマルデソープション ATD400、パーキンエルマー製 固体試料から発生する揮発性有機化合物分析、大気分析、気体成分分析
固相マイクロ抽出装置 SPME、バリアン製 水溶液中揮発性及び半揮発性化合物分析、カビ臭分析
ダブルショット型熱分解装置 PY-2020、フロンティア・ラボ製 加熱雰囲気の切替;ヘリウム、空気他
加熱炉温度制御 :40°C~800°C
昇温速度:1~60°C/min
ヘッドスペース スタティックヘッドスペース法、バリアン製 水溶液中揮発性有機化合物分析

ガスクロマトグラフ質量分析法 (GC-MS)の事例

事例1;プラスチック中の高分子光安定剤(HALS)の分析

光安定剤(HALS)は高いラジカル補足力を有するため、基質ポリマーに対して1%以下の添加量で光酸化防止効果を発揮することが知られており、屋外で用いるプラスチック中には欠かせない添加材の一つです。
従来、HALSの分析は溶媒抽出等煩雑な前処理を行い、分離・分析を行っていましたが、溶解度の低いHALSの分析は困難でした。本事例ではTMAH(有機アルカリ化試薬)共存下で熱分解GC-MSを行い、HALS分析の効率化に成功しました。

事例2;加熱脱着法を用いたGC-SCD-MSにおける異臭分析

JIS K 0092排ガス中のメチルメルカプタンの分析では、従来からガスクロマトグラフ法が採用されております。しかしながらメチルメルカプタンと、二硫化炭素および二酸化硫黄の分離が難しく、共存成分の多いガス環境下では適用困難な状況にありました。本方法では、検出部に化学発光硫黄検出器(SCD)とMSの二種類の検出器を設置し、これらの同時定量分析を可能とすることで、共存成分が多いガス試料にも適用できるようにしました。さらに、加熱脱着法との併用で、各種異臭分析にも対応することが可能です。

加熱脱着GC-SCD-MS法で分析した事例


装置外観

1:硫化水素、
2:メチルメルカプタン、
3:エチルメルカプタン、
4:二硫化炭素、
5:イソプロピルメルカプタン、
6:プロピルメルカプタン、
7:tertブチルメルカプタン、
8:secブチルメルカプタン、
9:イソブチルメルカプタン
10:ブチルメルカプタン

事例3;熱分解GC-MS(Py-GC-MS)による加熱発生ガスの分析

Py-GC-MSの熱分解装置と、質量分析計を不活性金属キャピラリー管で直接つないで行うEGA-MS法による加熱発生ガス分析では、試料を昇温加熱した際に発生するガスを検出器へ連続導入しながら測定し、発生ガス曲線を作成することで、揮発成分の気化温度や熱分解温度を推測する事ができます。さらに、分離カラムをつけたPy-GC-MSにより、得られた発生ガス曲線のうち、特定の温度領域で発生するガス成分の同定も可能です。

(1)発生ガス曲線の作成(不活性金属キャピラリー管使用)

(2)発生ガスの成分調査(分離カラム使用)

発生ガス曲線から、3つの温度領域でガスの発生が確認されたので、各温度領域で発生するガス成分をPy-GC-MSにて調査した。

 

250°Cまでに、フタル酸ジオクチルなど可塑剤として添加している成分が揮発していると考えられる。

250~362°Cで塩化水素とベンゼンが観察された。
脱塩素反応が起こり、ポリエン構造の生成および環化が起こっていると考えられる。

362~550°Cで多くの芳香族化合物が観察された。残りの部分の環化がおき、分解したと考えられる。

参考技術資料

GC-MS
HRE-1904 HES質量分析計を搭載したバルブシステムGC/MSを用いた低級炭化水素化合物の分析

Py-GC-MS
HRM-1618  熱分解(Py)-GC/MS装置紹介
HRM-1620 ダブルショット法による高分子および添加剤の同定
HRM-1619 熱分解(Py)-GC/MSによる樹脂の同定
HRM-1621  熱分解(Py)-GC/MSによる加熱発生ガスの分析

GC関連
HRE-1903 GC/PDHIDを用いたガス中の無機ガス成分、低級炭化水素の分析

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