電子スピン共鳴法(ESR)
電子スピン共鳴法(Electron Spin Resonance : ESR)は磁場中に置かれた不対電子がマイクロ波を吸収して励起する原理を利用し、ラジカルの種類や量を測定する手法です。材料の劣化挙動評価に用いられることが多く、紫外線照射や加熱下でのin situ測定にも対応しています。リチウムイオン電池のサイクル劣化評価も可能です。
電子スピン共鳴装置(ESR)
電子スピン共鳴法(ESR)の特徴
加熱機構、ガス導入機構および光照射装置を搭載しており、 各種in situ測定が可能
電子スピン共鳴法(ESR)の適用分野(用途)
- 有機材料:樹脂、炭素材料、高分子材料等の酸化・光劣化、反応性評価
- 電池材料:LiB中の金属Liの評価、負極材の評価(劣化、導電性)
- 触媒材料:TiO2等の活性点の評価、反応中間体の評価
電子スピン共鳴法 ESRの原理
ESRとは、ラジカルが磁場中でマイクロ波を吸収し励起する現象を利用し、ラジカルの種類や量を定量する手法です。
ラジカルや奇数個の電子を持つ分子、イオンおよび金属の状態を知ることができます。
ラジカルの種類や量は材料の反応や劣化によって変化します。
ESRではラジカルを連続的に測定することができ、反応や劣化のプロセスを観測することが可能です。
ラジカルの発生要因
ラジカルの主な発生原因は有機材料等の熱や光による結合の切断(変質、劣化、分解)、材料のせん断等による物理的な切断でも発生します。
また、無機材料等でも酸素欠陥やダングリングボンドでラジカルが発生する場合が存在します。
測定対象はラジカル以外にも、最外核電子が奇数のイオンや金属も測定できます。
測定事例:繊維材料の光劣化、炭化物の熱分解
ESRで検出できるサンプル
装置仕様
- 動作周波数 :Xバンド
- 測定磁場範囲 :0~650mT
- マイクロ波パワー:1uW~100mW
- 制御温度 :-180°C~200°C
- 光照射波長 :240~400nm
- ガス導入 :ガス成分により要相談
サンプル形状
- 試料 :固体(バルク、粉体)、液体試料
- 導入可能サイズ:φ4mm×40mmに収まるもの
電子スピン共鳴法(ESR)の事例
事例1;アラミド繊維の光劣化測定
対切創手袋等に用いられるアラミド繊維は紫外線により変色したり、繊維の物性が低下(劣化)することが知られています。
本事例ではアラミド繊維に紫外線を照射し、劣化の指標としてラジカルの生成をin situ測定しました。
結果
- 検出ピークの位置(g値)から -C・-O(COラジカル)の生成が確認できました。(図1)
- 紫外線照射によりラジカル数の増加(約3倍)が確認できました。(表1)
事例2;炭化物の熱分解反応
炭化物の熱処理前サンプルと1200°C加熱サンプルを比較し、CHやCO構造等、未炭化部の熱分解を示唆する結果が得られました。
結果
- 熱処理後サンプルから g=2.003 :炭素ラジカルが検出されました。
- CHやCO構造などの未炭化部の熱分解が示唆されます。
事例3;リチウムイオン電池(LiB)負極に生成する金属Li
LiBは充放電の繰り返しにより劣化し、負極上にLiイオンに戻れなくなった金属Liが析出することが知られています。
サイクル試験により劣化させたLiBを解体し、変色部(白色、灰色、緑色(干渉色))を回収、ESR測定を行うことで変色部より金属Liを検出しました。
結果
- 白色部>灰色部>緑色部の順で金属Li量が増加しました。
- 白色部はピーク形状が非対称となり、金属Li層が分厚いことが推察されます。
※白色部は非対称ピークのため、表皮効果により定量値は真値より低値に見積られています。
注)表皮効果:マイクロ波などの電磁波が導体物質(金属)を通過する際、物質表面を通過する現象。この現象により、非対称ピークは物質内部が測定できていないデータとなります。
参考技術資料
関連する技術
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