昇温脱離ガス質量分析(TDS)

昇温脱離ガス質量分析(TDS: Thermal Desorption Spectrometry、別称 TPD: Thermal Programmed Desorption)は、高真空雰囲気下で昇温加熱することにより試料から発生するガス成分を質量分析計(四重極質量分析計、Q-MS)で測定する手法です。
試料から放出されるガス成分の温度依存性を見ることで、試料表面の吸着ガスの脱離、試料内部に存在したガスの拡散、試料の分解によるガスの発生などの機構を知る手がかりになります。
材料欠陥の発生原因の究明や、材料設計の評価、表面汚染、製造工程の評価、脱ガス条件の設定などに役立ち、水素脆性の原因となる拡散性水素の分析も可能です。
また、昇温は1500°Cまで行えるため超高温度域での脱ガス成分評価が可能です。

昇温脱離ガス質量分析装置


赤外線加熱TDS装置外観(電子科学(株) 製TDS1200)

抵抗炉加熱TDS装置外観((株)アールデック製 HTDS-003HT)

昇温脱離ガス質量分析(TDS)の特徴

昇温脱離ガス質量分析(TDS)の適用分野

赤外線加熱TDS と 抵抗炉TDS の比較

  赤外線加熱TDS 抵抗炉加熱TDS
昇温温度 R.T.~1400°C R.T.~1500°C
昇温速度 任意に設定可
(通常は10°C/min~60°C/min)
任意に設定可    ただし、
昇温温度<1000°Cの場合 Max600°C/hr
昇温温度>1000°Cの場合 Max300°C/hr
測定質量数 m/z 1~200 m/z 1~200
測定雰囲気 真空 真空
測定チャンバー真空度 1×10-7 Pa 以下 1×10-7 Pa 以下
試料形状 固体、粉体 固体、粉体
試料サイズ   14mm角×4mm厚以内
 (粉体試料の場合は0.1g程度必要)
 15mmφ×50mmL以内
(粉体試料の場合は0.1g程度必要)
特長 ・高温域でのバックグラウンド上昇が小さい
・検出器が試料直上にあるため高感度分析が可能
・高速昇温が可能
・大型試料を直接導入できる
・抵抗炉加熱のため赤外線を吸収しない試料でも問題なく加熱できる
・試料サイズによる温度ムラが小さい(均一に加熱できる)
得意な試料 ・半導体材料
・有機材料
・耐熱材料
・金属材料
※試料情報を精査し最適な装置をご提案いたします

1.赤外線加熱TDS

測定ステージ下部から試料に赤外線を照射することにより試料を加熱し、発生するガス成分を分析します。温度制御用の熱電対は測定ステージに固定されておりますが、試料上部から測温用熱電対を当てることで試料表面温度の測温も可能です。
また、トランスファーベッセル(写真.3)を用いることで大気非暴露で試料を取り扱うことも可能です。


赤外線加熱TDS装置構成図

トランスファーベッセル

赤外線加熱TDSの特徴

2.抵抗炉加熱TDS

試料を測定室に導入し、その後抵抗加熱炉により加熱を行い発生するガス成分を分析します。


抵抗炉加熱TDS装置構成図

抵抗炉加熱TDSの特徴

昇温脱離ガス質量分析(TDS)の事例

事例1;デポ物(半導体処理工程で発生する反応生成物)の測定 (定性的な評価)

定性的な分析を行うことで何°Cで何が検出されたかが分かります。
事例1はデポ物の測定例になりますが、加熱にともない試料からH2、H2O以外にHClが確認されており、測定したデポ物はHClを用いた洗浄工程で発生したと推察できます。
なお、有機物も確認されておりますがTDS単独で有機物の特定は難しく、有機物に着目する場合は他の分析手法(GC-MS等)と組み合わせて評価する必要があります。

事例2;溶融石英及び合成石英のTDS分析 (定量的な評価)


溶融石英のTDS測定サーモグラム

合成石英のTDS測定サーモグラム

表 脱離H2O分析結果

試料名 H2O定量値(wt.ppm)
溶融石英 21.5
合成石英 10.5

定量的な分析をすることで、試料間の脱ガス量について評価することが可能です。
事例2は溶融石英と合成石英から脱離されるH2O量の比較であり、分析結果より溶融石英から多量にH2Oの脱離が確認されていることが分かります。
このように製造プロセスやその他の要因の違いによる試料中の内包ガス量の評価を行うことができます。

参考技術資料

水分の分析

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