顕微フーリエ変換赤外分光光度法(μ-FT-IR)

顕微フーリエ変換赤外分光分析(μ-FT-IR)とは

顕微フーリエ変換赤外分光分析(μ-FT-IR)は、試料に赤外光を照射し、透過または反射した光を分光することで、試料の化学構造解析や定量分析を行う手法です。そして、赤外光に対応した光学系を備えた顕微鏡と組み合わせることで、微小領域のイメージングが可能になります(μ-FT-IR) 。測定はごく少量の試料で迅速に行え、試料の2次元構造解析や付着物の分布なども評価が可能です。例えば、多層フィルムのような材料の成分変性領域の解析、成分配合度、相溶性などの2次元分布解析が挙げられます。

顕微フーリエ変換赤外分光分析装置(μ-FT-IR)

顕微フーリエ変換赤外分光法 (μ-FT-IR)の特徴


顕微FT-IRで選択可能な測定モード

顕微フーリエ変換赤外分光法 (μ-FT-IR)の適用分野

顕微フーリエ変換赤外分光法 (μ-FT-IR)の原理

物質に赤外光を照射し波長を掃引すると、ある波長領域で吸収が起こります。これは、物質の分子振動や回転運動のエネルギーに対応しており、物質固有の組合せを持ちます。このパターンを解析することで官能基の他、物質の同定も可能です。
FT-IR装置本体は赤外光源、干渉計および検出器より構成されます。光源から出た赤外光は干渉計で各周波数毎に変調された合成波になります。この光を試料に照射し、透過光や反射光を検出します。赤外光の照射系および検出系を、顕微鏡にすることで、微小領域の測定が可能になります。


典型的な赤外吸収スペクトル例

ラミネートフィルムのATRイメージング例

ラミネートフィルムのATRイメージング例。100μm幅のラミネートフィルムをATRイメージングで測定した結果です。4μm~20μm幅の8層を完全分離できています。

顕微を含むFT-IRシステムの装置仕様

測定波数範囲
  • 中赤外 7800~350cm-1 (KBrビームスプリッター)
  • 近赤外 14700~2000cm-1(CaF2ビームスプリッター)
    *) 7800~350cm-1(ATRモード)
最高波数分解能
  • 中赤外 0.4 cm-1
  • 近赤外 1.0 cm-1
SN比
  • 中赤外 55000:1
    (分解能4cm-1、1分間積算、2200cm-1近傍P-P値)
  • 近赤外 <10μAbs 1分間16cm-1
アクセサリー ユニバーサルATR クリスタルにダイヤモンドを用いているため、傷がつきにくく、固体・液体・粉体など広範囲のサンプルに使用可能
加熱拡散反射 温度範囲:室温~900°C、 到達真空度:1.33×10-4Pa
高感度反射 入射角:75o、窓板:ZnSe
卓上傾斜切削機 傾斜切削角度:0.2~10.0° *0.2o刻みで任意設定 バイト:単結晶ダイヤバイト

サンプル仕様

顕微フーリエ変換赤外分光法 (μ-FT-IR)の事例

事例1;食品包装用フィルムの赤外分光イメージング

食品の包装用フィルムの断面を測定し、フィルムの構成樹脂の特定を行いました。フィルムは3層構造であり、それぞれの層はポリエチレン、エチレン・ビニルアルコール樹脂、ポリプロピレンであることがわかりました。

事例2;FT-IR反射イメージング法による鋼板付着物の分析

イメージング結果から、油は鉱物油、付着物はセルロースであることが同定でき、それぞれの平面方向分布もわかりました。

・可視光イメージからは鋼板上に油ジミと付着物が確認されました(図1)。
・C-H伸縮振動由来のIRイメージを図2に、十字印の領域から抽出した赤外スペクトルを解析することで、油は鉱物油であることがわかりました(図4)。
・図3中の十字印の領域から抽出したスペクトルには、鉱物油のほかにセルロースの存在が確認されました(図5)。なお、図3はセルロースに特徴的な吸収波数領域のIRイメージです。

・事例3;ATRイメージングによる樹脂の劣化解析

エステル系ポリウレタンでは、エステル結合が水と反応して酸とアルコールに加水分解することが、劣化の大きな要因となっています。エステル基の減少に着目したATRイメージングにより、劣化を可視的に示すことができます。

エステル基のC=O伸縮である1730cm-1の吸収ピークに着目したイメージングにより、内部に比べて外面部ではポリウレタンのエステル基の吸収低下が認められ、加水分解によるポリウレタンの劣化が確認されました。

参考技術資料

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