ガス成分分析
ガス成分分析とは
金属材料において炭素(C)、硫黄(S)、酸素(O)、窒素(N)、水素(H)は、材料特性に大きく影響を及ぼします。例えば鉄鋼材料では、Sの低減は耐食性が向上する一方で、Sをあえて添加することで切削性を向上させることもあります。この為、材料中のこれら成分(C,S,O,N,H)を分析することは材料開発、生産管理の上で重要となります。一方、セラミックス材料においては、O,Nは主成分元素でありこれら成分の濃度を調査することもまた材料の特性を調査する上では重要となります。
固体材料中のC,S,O,Nは、ガス形成元素であるという特徴を利用してガス成分分析装置で測定します。試料を装置内で、燃焼酸化または高温還元させることで、分析成分をガス化した後、分離、検出することで、高精度・高感度な分析が可能です。
ガス成分分析装置一覧
装置 | CS分析装置 | ON分析装置 | H分析装置 |
---|---|---|---|
対象 | 固体/金属・セラミックス・鉱石等 | ||
検出方法 | 赤外線吸収法 | O:赤外線吸収法 N:熱伝導度法 |
熱伝導度法 |
燃焼酸化 又は 高温還元法 |
高周波炉、電気抵抗炉 (O2雰囲気) |
抵抗加熱融解 (He or Ar雰囲気) |
抵抗加熱融解 (Ar雰囲気) |
最高加熱温度 | 約2,000°C | 約3,000°C | 約3,000°C |
*有機物試料(液体・固体)中のC,H,N,S分析に関しては、下記装置を適用します。
ガス成分分析の特徴
- 固体状態での分析が可能 ※測定可能な形状(サイズ)への加工必要です。
- 燃焼/酸化または高温/還元による破壊分析
- 妨害元素の影響を受けにくい高精度・高感度分析
- ppm~%オーダーまでの分析が可能
- 迅速分析が可能
(注意点)
- 低融点、沸点金属試料の測定は元素によっては分析不可となることがあります。
※揮発した金属による装置汚染や、揮発金属への抽出ガスの再吸着による分析値への負の誤差が発生する可能性あるため - 有機物を多量に含有している試料のO,N,H分析は完全分解しない可能性があり、分析困難な場合があります。
※ 別装置による対応可能です。ご相談下さい。 - 水分多量含有物、ハロゲン含有物、高揮発性物質の測定は、装置内部品の劣化による分析値異常値や内部損傷、内部汚染を発生させる可能性があり、測定条件の検討等注意が必要です。
ガス成分分析の適用分野
- 鉄鋼材料
- 非鉄金属材料
- 非金属材料(セラミックス、鉱石等)
- 半導体材料
- 電池関連
サンプル仕様
- 試料量目安 標準1g(1回測定)
1.CS分析装置
試料を酸素(O2)雰囲気中で燃焼し、試料に含まれる炭素(C)および硫黄(S)をガス化します。CはCO2(一部はCO)、SはSO2として抽出、抽出ガスの赤外線検出器(NDIR)での赤外線吸収量から試料中のC,S濃度を算出します。
燃焼方法には、(1)高周波炉(高周波誘導加熱)、(2)電気抵抗炉(発熱体加熱)の2種があり、分析対象材料の組成(融点)や、測定成分(C)の形態によりいずれの燃焼方法を用いるか選択します。
(1) CS分析装置(高周波炉)
CS分析装置(高周波炉)の原理図
※HORIBA製作所様提供
(2) CS分析装置(電気抵抗炉)
加熱部(電気抵抗炉)の原理図
※HORIBA製作所様ご提供
電気抵抗炉タイプの特徴
- 最大温度1400°C程度
- 温度コントロール(昇温分析)が可能
- 遊離炭素(フリーカーボン)※の測定が可能 ※単体で存在している炭素原子
- 低温分解物質(有機物等)の分析が可能
CS分析装置の事例
各種材料の炭素・硫黄分析
1)金属材料中の炭素・硫黄分析
表2. 鉄鋼認証標準物質の全炭素分析結果 ≪JIS G 1211≫ (単位;%)
標準試料 | 銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS 001-6 | 高純度鉄 | 0.00024 | 0.0003±0.0001 |
JSS 1207-1 | 微量炭素専用鋼 | 0.00245 | 0.0025±0.0001 |
JSS 651-12 | ステンレス鋼 | 0.041 | 0.041±0.0004 |
JSS 608-8 | 工具鋼 | 0.80 | 0.80±0.01 |
JSS 110-11 | 銑鉄 | 4.17 | 4.19±0.042 |
表3. 鉄鋼認証標準物質の硫黄分析結果 ≪JIS G 1215≫ (単位;%)
標準試料 | 銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS 249-9 | 硫黄定量専用鋼 | 0.0020 | 0.0019±0.0002 |
JSS 243-5 | 硫黄定量専用鋼 | 0.339 | 0.33±0.004 |
2)粉体試料中の炭素・硫黄分析
表4. 合金鉄及びセラミックス標準試料中の炭素分析結果 (単位;%)
標準試料 | 銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JCRM R023 | 炭化ケイ素 | 29.6 | 29.5±0.9 |
JSS 755-1 | フェロニオブ | 0.19 | 0.19±0.01 |
表5. 合金鉄及びセラミックス標準試料中の硫黄分析結果 (単位;%)
標準試料 | 銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS902-1 | 炭化ケイ素 | 1.09 | 1.13±0.04 |
JSS 755-1 | フェロニオブ | 0.15 | 0.14±0.01 |
2.ON分析装置
試料を黒鉛るつぼ内、不活性ガス(He or Ar)雰囲気中で抵抗加熱融解します。
試料中の酸素(O)は黒鉛るつぼと反応(還元)され、一酸化炭素(CO)ガスとして抽出された後、二酸化炭素(CO2)へ酸化させます。CO2ガスの赤外線検出器(NDIR)での赤外線吸収量から試料中のO濃度を算出します。
一方、窒素は還元反応によりN2ガスとして抽出された後、検出の妨害となるCO2や水(H2O)と分離後、熱伝導度検出器(TCD)で検出、熱伝導度の差から試料中のN濃度を算出します。
ON分析装置の原理図
※HORIBA製作所様提供
ON分析装置の事例
各種材料の酸素・窒素分析
表6. 鉄鋼及びセラミックス標準試料の酸素分析結果(単位;%)
標準試料 | 試料銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS GS-6b | 酸素分析専用鋼 | 0.00034 | 0.00034±0.00004 |
JCRM R 003 | 窒化珪素 | 1.27 | 1.19±0.08 |
表7. 鉄鋼標準試料の窒素分析結果(単位;%)
標準試料 | 試料銘柄 | 認証値 | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS 366-8 | 窒素分析専用鋼 | 0.00075 | 0.00076±0.00004 |
JSS 517-4 | ニッケルクロムモリブデン鋼 | 0.0104 | 0.0103±0.0002 |
3.H分析装置
試料を黒鉛るつぼ内Ar雰囲気中で抵抗加熱融解します。発生したガス成分の内、H2検出の妨害となるCO2やH2Oを吸収除去後、分離カラムでH2とN2を分離、熱伝導度検出器での熱伝導度の差から試料中のH濃度を算出します。
H分析装置の原理図
※HORIBA製作所様提供
水素分析の事例
各種材料の水素分析
表8. 標準試料(管理試料)の水素分析結果(単位;ppm)
標準試料 | 試料銘柄 | 認証値(合意値) | 分析値 |
---|---|---|---|
JSS GS9-1 | 鉄鋼 | 2.0 | 1.9±0.2 |
JSS 7a | 鉄鋼 | 6.0 | 6.3±0.3 |
502-947(LECO社製) | チタン | 14 | 15±2 |
502-876(LECO社製) | チタン | 28 | 28±2 |
公的規格
【CS分析】
- ・JIS Z 2615 金属材料の炭素定量方法通則
・JIS Z 2616 金属材料の硫黄定量方法通則
・JIS G 1211-3 鉄及び鋼-炭素定量方法-第3部:燃焼-赤外線吸収法
・JIS G 1215-4 鉄及び鋼-硫黄定量方法-第4部:高周波誘導加熱燃焼-赤外線吸収法
・JIS H 1275 ニッケル及びニッケル合金中の炭素定量方法
・JIS H 1617 チタン及びチタン合金中の炭素定量方法
・JIS H 1277 ニッケル及びニッケル合金中の硫黄定量方法
・JIS H 1626 チタン合金-硫黄定量方法
・JIS H 1070 銅及び銅合金中の硫黄定量方法
・JIS R 1603 ファインセラミックス用窒化けい素微粉末の化学分析方法
・JIS R 1616 ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法
・JIS R 1675 ファインセラミックス用窒化アルミニウム微粉末の化学分析方法
・JIS M 8217-3 鉄鉱石-硫黄定量方法-第3部:高周波誘導加熱-赤外線吸収法
【ONH分析】
- ・JIS Z 2613 金属材料の酸素定量方法通則
・JIS G 1239 鉄及び鋼-酸素定量方法-不活性ガス融解-赤外線吸収法
・JIS G 1228-3 鉄及び鋼-窒素定量方法-第3部:不活性ガス融解-熱伝導度法
・JIS H 1067 銅中の酸素定量方法
・JIS H 1620 チタン及びチタン合金中の酸素定量方法
・JIS H 1612 チタン及びチタン合金中の窒素定量方法
・JIS H 1619 チタン及びチタン合金-水素定量方法
・JIS R 1603 ファインセラミックス用窒化けい素微粉末の化学分析方法
・JIS R 1616 ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法
・JIS R 1675 ファインセラミックス用窒化アルミニウム微粉末の化学分析方法
関連する技術
- キャピラリー電気泳動法(CE)
- 原子吸光分析法(AAS)
- イオンクロマトグラフ法(IC)
- 水分の分析
- 重量法、容量法(滴定法)
- 誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)
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