誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)
ICP-OES:Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometer
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)とは
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)は、溶液試料をArプラズマ(約8,000K)に噴霧する事で、元素の定性・定量分析を行う分析手法です。ガス成分(C,O,N,H)や希ガス(He,Ne,Ar 等)を除く、ほぼ全ての元素の分析が可能です。固体試料に関しても、適切な酸やアルカリ試薬で分解し、溶液化する事で、各種元素の定性・定量分析が可能です。
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)の特徴
- 材料中濃度で数十ppm(µg/g)~数十%程度まで測定可能
※ダイナミックレンジが広い - 容量法・重量法やフレーム原子吸光光度法等に比べ、高感度での分析が可能
- 多元素同時分析が可能
- 複数の波長から分光干渉を受けない波長を選択することで、正確な測定が可能
- プラズマが非常に高温(約8,000K)であるため、化学干渉を受けにくい。
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)の適用分野
- 鉄鋼材料(銑鉄、炭素鋼、低合金、高合金 等)
- 非鉄金属材料(銅合金、アルミニウム合金、チタン合金、ニッケル基合金 等)
- 非金属材料(耐火物、スラグ、各種原料、樹脂・プラスチック 等)
- 溶液(排水、溶出液、純水 等)
- めっき関連(めっき皮膜、めっき液 等)
- 半導体材料(ファインセラミックス、YAG結晶、人工水晶、はんだ 等)
- 電池関連(正極材、負極材、バインダー原料、電解液 等)
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)の原理
溶液化した試料を高温のArプラズマ中に噴霧し、各元素(原子)を励起・発光させ、発光した原子スペクトル線の波長位置(色の違い)から定性分析を、発光強度(色の濃さ)から定量分析を行います。
当社保有装置の仕様
優 | 劣 | ||
分光器 | シーケンシャル型 | 波長分解能に優れるため、複雑なマトリックス(夾雑物)試料の測定に適している。 | 多元素分析装置だが逐次測定(各元素・波長毎)のため、測定元素数や波長数に比例して測定時間が長くなる。 |
マルチ型 | 低波長から高波長まで同時測定が可能であり短時間で多くの元素情報が得られる。 | シーケンシャル型より波長分解能が劣るため、干渉影響のない波長を選択する。 | |
試料導入系 |
|
サンプル仕様
- 溶液試料の場合、100 mL程度
- 固体試料の場合、5~10 g程度
※大きな試料の場合には、事前にご相談ください。 - 表面処理等の処理を施している場合は、事前にご相談ください。
※表面層除去後に分析を実施いたします。
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)の事例
事例1;ファインセラミックスの不純物元素分析
電子・光学材料や各種製品として使用されるファインセラミックスの研究開発や品質管理において、原料から製品までの化学組成の把握は非常に重要です。当社では、様々な手法を用いた化学組成分析が可能です(表1)。ここでは、アルミナの不純物元素分析について紹介します。
- 分析方法:加圧硫酸分解・ICP発光分光分析法
- 規格;JIS R 1649 ファインセラミックス用アルミナ微粉末の 化学分析方法
表1 代表的なファインセラミックスと関連規格
名称 | 化学式 | 関連規格 | |
---|---|---|---|
酸化物 | アルミナ系 ジルコニア系 | Al2O3 ZrO2 | JIS R 1649 JCRS 107 |
炭化物 | 炭化ケイ素 | SiC | JIS R 1616 |
窒化物 | 窒化ホウ素 窒化ケイ素 | BN Si3N4 | JCRS 108 JIS R 1603 |
アルミナ粉(Al2O3)中の不純物元素分析の作業例
アルミナ粉(Al2O3)中の不純物元素分析の分析結果
表2 アルミナ微粉末標準物質の定量分析結果 単位(mg/kg)
元素 | JCRM R035(標準物質) | JCRM R036(標準物質) | ||
---|---|---|---|---|
認証値 | 定量値 | 認証値 | 定量値 | |
SiO2 | 116 | 110 | 569 | 553 |
Fe2O3 | 152 | 146 | 139 | 136 |
TiO2 | 29 | 28 | 32 | 31 |
CaO | 188 | 187 | 242 | 238 |
MgO | 13 | 13 | 6 | 5 |
CuO | 18 | 18 | - | - |
ZrO2 | 9 | 9 | 4 | 4 |
ZnO | 12 | 12 | 7 | 7 |
Ga2O3 | 74 | 71 | 76 | 74 |
SrO | 7 | 6 | 2 | 2 |
いずれの元素においても、認証値に対して良好な定量値が得られております。
その他の材料にも対応しておりますので、ご依頼の際は試料組成とご希望の元素・定量下限の情報と共にご相談ください。
事例2;有機溶媒直接導入ICP-OES&ICP-MS測定による油中の微量元素定量
オイル標準物質の測定結果を以下に示します。
詳細は、テクニカルレポート(STM-2201)をご参照ください。
測定試料 :オイル標準物質(EnviroMAT Used Oil HU-1(140-025-041))
ICP-OES装置 :Agilent5900
ICP-MS装置 :Agilent8800
試料導入系 :有機溶媒試料導入系
希釈用有機溶媒 :ケロシン
各種油中の分析項目例を表3に示します。機器の稼働状況や製品品質の確保にも有用となりますので、是非お問い合わせください。
油種 | 用途・項目 | 分析元素 | |
---|---|---|---|
潤滑油 | 摩耗金属 | Al,Fe,Cu,Cr,Ni,Zn など | |
冷却剤漏れ | B,Na,K | ||
シール材からの汚染 | Si,Zn,Cr | ||
添加剤 | 酸化防止剤(B,Cu,Zn) | 界面活性剤(Ba,Ca,Mg,Zn) | |
摩耗防止剤(B,Cu,P,S,Zn) | 防蝕剤(Ba,Zn) | ||
摩耗調整添加剤(Mo) | 防錆剤(Ba) | ||
燃料油 ・原油 ・ガソリン ・ディーゼル |
腐食促進 | V,Fe,Ni,Si,Al | |
規制物質 | Pb | ||
Pb代替添加物 | K,Mn | ||
添加剤 | 酸化防止剤(B,Cu,Zn) |
公的規格
- JIS K 0116 発光分光分析通則
- JIS K 0101 工業用水試験方法
- JIS K 0102 工場排水試験方法
- JIS G 1258 鉄及び鋼-ICP発光分光分析方法-
- JIS H 1052~1074 銅及び銅合金中の元素定量方法
※JIS H 1064,1066,1067には、ICP-OESの規定無し - JIS H 1289 ニッケル及びニッケル合金-ICP発光分光分析方法-
- JIS H 1339,1342~1344 マグネシウム及びマグネシウム合金中の元素定量方法
- JIS H 1307 アルミニウム及びアルミニウム合金の誘導結合プラズマ発光分光分析方法
- JIS H 1632 チタン-ICP発光分光分析方法-
- JIS H 1699 タンタルのICP発光分光分析方法
- JIS M 8206 鉄鉱石-ICP発光分光分析方法
- JIS R 1603 ファインセラミックス用窒化けい素微粉末の化学分析方法
- JIS R 1616 ファインセラミックス用炭化けい素微粉末の化学分析方法
- JIS R 1649 ファインセラミックス用アルミナ微粉末の化学分析方法
- JIS R 2212 耐火物製品の化学分析方法
参考技術資料
- STM-2304 電解液の組成元素分析(有機溶媒直接導入-ICP法)
- STM-2302 RoHS指令対応 電子機器材料中の有害物質分析
- STM-2202 ICP-OES測定による希土類磁石中の元素定量
- STM-2201 有機溶媒直接導入ICP-OES&ICP-MS測定による油中の微量元素定量
- HRM-1625 ICP-OES、ICP-MS法による各種原材料中ケイ素、ホウ素定量
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無機分析
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