文化財の鉛同位体比分析

歴史資料の材質や産地・年代を明らかにする科学的手法の一つに、鉛同位体比分析法があります。これは鉛同位体比が鉱山毎に異なることを利用して、金属材料中に含まれる鉛の同位体比測定を行い、原料産地を推定するものです。
測定装置である表面電離型質量分析装置(Thermal Ionization Mass Spectrometry、以下TIーMSと記載する)は測定技術とともに技術移管されました。文化財の鉛同位体比分析は、当社にお問合わせください。

鉛同位体比の原理

鉛の同位体は主に204Pb、206Pb、207Pb、208Pbの4種が安定して存在していますが、これらの内、206、207、208のPbは、それぞれ238ウラン(U)、235U、232トリウム(Th)から、放射壊変により安定な最終核種になります。
地球誕生時の岩石・鉱物中には僅かなウラン(U)、トリウム(Th)が含まれています。そのため、長い年月と共238U、235U、232Thは減少し、206Pb、207Pb、208Pbは増加します。


鉛同位体比の原理図

204Pbのみは地球が生成された時の存在量のままで変化しません。地殻変動などの影響で、鉛が濃縮し、鉛鉱床が生成すると、ウランとトリウムは排除され、それ以後同位体比は変化せず、安定して存在することになります。つまり、地球誕生時に岩石中に含まれていた鉛の量とウラン、トリウムの量、共存時間によって、鉛の同位体比は地域によって異なる値を示し、それぞれの鉱山の固有値となるというわけです。
考古遺物の原料に関する産地推定の研究は、以上のような原理を応用し、鉛鉱床あるいは産出地域の鉛同位体比との比較により産地を推定できるようになりました。

表 U及びThの放射壊変と鉛の生成

親核種 親核種の質量数 半減期 娘核種 娘核種の質量数
U 238 45億年 Pb 206
U 235 7.1億年 Pb 207
Th 232 140億年 Pb 208
*** *** *** (Pb) (204)

表面電離型質量分析(TIーMS)の測定原理図

遺物中の鉛同位体比の測定は、遺物である金属材料から鉛を単離することから始まります。当社では電気分解法(電着法)にて鉛の分離精製を行っており、分離して得られた鉛は、レニウムフィラメント上に載せ、通電加熱により気化、イオン化させて、質量分離を行います。

測定する質量は、鉛同位体の204Pb、206Pb、207Pb、208Pbの4種です。これら同位体は、同時に測定しないと精密な比として計測できないため、検出器は質量を順番に測定するシングルコレクターではなく、複数台の検出器であるマルチコレクター型の装置を使用しています。


図2 TI-MSの測定原理図

 

鉛同位体分析装置

TI-MS(Thermal Ionization Mass Spectrometry)
Thermo Fisher Scientific社製

原料の産地推定手法

文化財に含有される鉛を抽出し、鉛の同位体比を測定します。
鉛には、質量の異なる同位体があり、204Pb、206Pb、207Pb、208Pb の4種類が安定同位体と考えられています。この4種類の鉛同位体比は、原料の産地によって、異なります。このことから、出土した文化財の鉛同位体比分析を行うことで、原料の産地を科学的に推定する手法です。

分析対象品

主な対象材料 銅系(青銅、純銅など) 青銅器、銅鏡、銅鐸、銅剣、銅矛 等
ガラス系(カリガラス、鉛ガラスなど) ガラス玉、鉛玉 等
必要量 10mg程度 *鉛含有量によって異なります

鉛同位体比分析事例

銅鏡の原料産地推定

銅鏡の分析結果の例 下図分析値の例では、華北産の原料が使用された可能性が推察されました。

参考技術資料

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