文化財建造物の塗装材料の分析
文化財建造物の塗装材料の調査では、材料の劣化や後世の修理による塗り重ね等の試料自体が有する問題に加え、採取できる試料量に限りがあるため、その材質を正しく判断することが困難なことが多くあります。
そこで、微少量の試料でも精度よく分析できるPyro-GC/MS(熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析)法を用いた調査方法をご紹介いたします。
調査対象
- 塗膜の材質調査
- 琥珀の産地推定
分析法
- 1)有機系材料中に含まれる揮発性有機化合物を不活性ガス雰囲気下350°Cの熱脱着温度で揮発させ、揮発した複数成分を物理的、化学的性質の違いを利用して単一成分に分離を行った上で、イオン化させて質量として検出します。この熱脱着温度で揮発性有機化合物や添加剤などを熱抽出し、定性分析を行うことが可能です。
- 2)熱脱着されなかった残渣分は550°Cで熱分解し、生成した熱分解成分を解析することによって高分子化合物の定性分析が可能です。
2段階の加熱により、精度良く定性分析をおこなうことができます。
サンプルの仕様
固体、液体(約1mgあればOK)
文化財建造物の塗装材料の分析の事例
事例1;虹梁の塗装部材の分析調査
(1)採取した虹梁の塗装部材の外観
実体顕微鏡写真を示します。
(2) Pyro-GC/MS分析
下図にPyro-GC/MS分析により550°Cの熱分解生成物を調査した結果を示します。
(3)考察
Pyro-GC/MS分析の結果、植物油由来と推察される脂肪酸、ロジンの存在が確認されました。
また別途実施した蛍光X線分析法(XRF)による元素の定性分析において、鉛の存在が確認しました。
これらの結果から、塗膜は“ちゃん”塗りであると推察されました。
ちゃん塗*:伝統的塗装のひとつ。 出雲大社の国宝にも使用。