製鉄関連遺物の調査<製鉄遺跡調査シリーズ>

当社がご提供する文化財調査のうち、製鉄関連遺物の調査のエッセンスをシリーズでご紹介いたします。

本コンテンツのイラストは、(株)電気書院発行の書籍”イラストでみる はるか昔の鉄を追って~「鉄の歴史」探偵団がゆく~”鈴木瑞穂著より転載させていただきました。

製鉄関連遺物の調査

日本では、ほぼ全国各地に鉄または鉄製品の生産に関わる何らかの遺跡が残されています。そうした遺跡の発掘調査で出土する生産関連遺物を調査すると、その場で何が行われたのか、過去の生産技術や流通について知ることができます。ここでは当社がご提供する製鉄関連遺物の調査のエッセンスをご紹介いたします。

日本の「伝統的な製鉄技術」というとまず思い浮かぶのは、江戸時代に中国地方で盛んの行われていた『たたら製鉄』でないでしょうか。この時期には多くの文書や絵図などの史料が残されていますので、鉄づくりが行われていた時の姿を具体的にイメージしやすいです。イラストで少しその様子を見てみましょう。

1.江戸時代の”たたら製鉄”

近世には、製鉄を生業とする人々が生活する「山内(さんない)」が形成されるようになります。一つの山内では100300人が暮らし、年間を通して鉄を生産していました。「高殿」と呼ばれる大型の建物が建てられて、その中に製鉄炉を築き、繰り返し長期間操業されるようになっていました。
イラストにはかなくそ山が描かれています。山内で製造された鉄は出荷されてこの場を離れ、いろいろな鉄製品に加工されて当時の人々に利用されました。これに対して、当時の産業廃棄物(かなくそ=製錬滓など)は山内の回りに残されるので、発掘調査が行われるとしばしば大量に確認されることになります。

◇高殿(たかどの)内の設備と物の置き場                           ❶炉 砂を混ぜてよく練った粘土を積み上げて作ります                   ❷天秤ふいご 炉内に風を送る大型のふいご                        ❸砂鉄置き場                                      ❹炭置き場                                       ❺粘土置き場                                      ❻水置き場                                       ❼流れ出した銑(ずく)を溜めるところ                            ❽働く人の待機場                                         ❾ふいごを踏む人の待機場

江戸時代中期以降 鉄生産集落”山内”の配置
 

 

イラストにはかなくそ山が描かれています。山内で製造された鉄は出荷されてこの場を離れ、いろいろな鉄製品に加工されて当時の人々に利用されました。これに対して、当時の産業廃棄物(かなくそ=製錬滓など)は山内の回りに残されるので、発掘調査が行われるとしばしば大量に確認されることになります。

2.製鉄関連遺物(産業廃棄物)から昔の鉄づくりを探る

日本の最も古い製鉄炉は、古墳時代後期(6世紀後半)のものです。非常に小規模な製鉄炉からいろいろな変遷を経て、近世の大規模な『たたら製鉄』が成立・発展していきます。その一方、遺跡に残る製鉄関連遺物は、古い時期のものでも新しい時期のものでも、ほぼ同じ手法で分類・整理して、理化学的な分析調査を行い比較・検討することが可能です。
一見して「何が何だか分かりにくい」製鉄関連遺物ですが、当時の技術に関するさまざま情報を秘めています。主にどのような遺物があるのかを紹介します。

製鉄関連遺物の種類

1.製鉄原料

鉄は地球上でも一般的な元素ですが、その多くは酸化物の形で存在しています。このため金属として鉄を利用したければ、還元して金属鉄を得る必要があります。この作業をするのが「製鉄炉」です。そして原料となる「鉱石」を集めてくることは欠かせません。遺跡には、こうした製鉄原料もしばしば残されています。
最も古い時期の古墳時代後期の製鉄遺跡でも、鉄鉱石を原料とした遺跡と砂鉄を原料とした遺跡が確認されています。ただし鉄鉱石(塊鉱:磁鉄鉱)の利用は、現在の岡山県や滋賀県など、地域でまとまった採取が可能な地域に限られ、中世以降の利用は稀になります。砂鉄(磁鉄鉱・含チタン鉄鉱)はより広い地域で利用されています。

●鉄鉱石

古代の日本で、製鉄に利用された鉄鉱石(塊鉱)は磁鉄鉱です。世界各地の伝統的な製鉄では、他にも褐鉄鉱や赤鉄鉱を原料とする地域があります。しかし現在までのところ、日本では、主な製鉄原料として磁鉄鉱以外の鉄鉱物が遺跡から確認された事例はありません。

●砂鉄

砂鉄は花崗岩、安山岩、デイサイトなどの火成岩に含まれている磁鉄鉱が、風化作用によって、岩石を構成する他の造岩鉱物と分離したものです。そのため、砂鉄の成分はもととなる岩石の特徴を反映しています。

 

2.木炭

金属鉄を得るための、還元剤兼燃料として木炭が使われています。木炭の組織を観察すると、どのような木を利用していたのかが分かります。遺跡からは広葉樹材、特にクヌギ・コナラ・クリやアガガシなどの木炭がよく見つかります。

3.炉壁

日本の伝統的な製鉄法では、1回の操業が終わると炉からできたもの(金属鉄や製錬滓など)を取り出すため、製鉄炉(全体または一部)を壊します。このため製鉄炉跡の周辺に、炉壁の破片が大量に廃棄された例は多くみられます。炉壁の成分や耐火度から、どのような粘土を選んでいたのかを推測できます。また炉壁内面の付着物を調査すると製鉄原料に関する情報も得られます。

4.製錬滓

製錬滓は製鉄炉に装入された原料(鉄鉱石または砂鉄)と炉壁内面の粘土や木炭の灰分などが高温下で溶融してできた酸化物です。製錬滓中の結晶の組成や成分から、製鉄炉内の温度や還元雰囲気などを推定できます。また遺跡から製鉄原料が出土していなくとも、製鉄原料に由来する特徴的な成分を確認して、原料が何であったか判断できます。
特に表面が滑らかで、細い溶岩が幾筋も流れ固まったような外観の「炉外流出滓」は、操業中の製鉄炉の内部に溜まった滓を外に排出してできたものです。大形の炉外流出滓の破片が何点も出てくるようであれば、遺跡内または近接地域に製鉄炉があった可能性が高いと考えられます。

●炉底塊

製鉄炉の底のかたちを写し取った”炉底塊”は炉(+作業空間)の構造や操業直後の炉の内径などを知る手がかりとなります。

●炉外流出滓

現代の製鉄実験に参加して操業を体験しますと、製鉄炉の状態が良い時は炉外への滓の排出も順調です。そうでない場合、炉内に粘性の高い製錬滓がつまって苦労している姿を見ることもあります。
昔の鉄づくりの場でも、製錬滓の排出状況から操業が順調かそうでないか判断していたと推察されます。

5.鉄塊系遺物

製鉄原料(鉄鉱石・砂鉄)を還元してできた、金属鉄を含む遺物を「鉄塊系遺物」と呼びます。製鉄関連遺物のなかから、金属鉄が残存する鉄塊系遺物を見つけ出して、金属組織を観察し、炭素含有量を推定することは、その場でどのような鉄が生産されていたのか、その後どのような製品の素材となったかを知るうえで非常に重要です。

このように、製鉄関連遺物を分類・整理し、理化学的な分析調査試料をバランスよく選定することは、製鉄遺跡の調査において欠かせない作業です。外観的な特徴を見て判断・選定するには、専門的な知識が必要ですので、どのような遺物か確認し、適切な調査方法をご提案することも可能です。
製鉄関連遺物の調査については、お客様のご要望に応じて現地での確認や調査前に遺物の外観的特徴を確認し、調査方法のご提案も承ります。

「何が出てきているのか良く分からない」といった場合も、是非ご相談ください。

分析調査方法

多種多様な対象品に対し、調査目的にあった分析装置、手法を選択して調査いたします。
非破壊分析、微小試料、サンプリングについてもご相談ください。

  1. 成分組成を調査する方法:化学分析;ICP-AES、ICP-MS、GC-MS、蛍光X線、EPMA、EDS、IR等
  2. 化合物形態を調査する方法:X線回折(XRD)、XPS、ラマン分光等
  3. 局所的元素分布を調査する方法:EPMA、EDS、AES等
  4. 形態、構造、金属組織を調査する方法:X線CT、X線透視、SEM、三次元計測、光学顕微鏡等
  5. 含鉛試料の原料の産地を推定する方法:鉛同位体比分析

参考技術資料

TSU-1807 文化財調査室のご紹介


*主なご依頼元
文化財研究所、大学、教育委員会、文化財センター、文化財保存協会、博物館、地方公共団体 など

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