X線回折による電池材料の構造解析
X線回折は結晶の原子配列を調べる手段の一つで、測定対象がどのような結晶構造の物質か、その物質に力が加わって変形していないか、などの情報を得ることができます。電池材料評価では、X線回折法を用いて正負極活物質の構造を決定したり、電池に通電しながら測定することで充放電に伴う構造変化を調べることができます。また、界面反応相など規則的な構造を持たない非晶質相の元素間の短距離秩序構造は、元素によって決まるX線吸収端の微細構造から求められることもあります。
X線回折装置の構成

X線回折による電池材料の構造解析の特徴
- 大気非暴露測定にも対応可能。
- 雰囲気、温度などの影響による変化に加え、電池の充放電に伴う相変化も調査可能。
- ほぼ非破壊状態で、結晶構造を有する物質の相同定、相の存在比率の測定が可能。
- 結晶構造データベースを活用し、多岐にわたる物質の構造解析が可能。
X線回折による電池材料の構造解析の適用分野(用途)
- 鋼中の各種析出物の同定、α相/γ相比率の測定
- 合金中の相同定、相比率測定
- 結晶配向(薄膜、多結晶体)、集合組織の測定
- 残留応力、転位密度、結晶粒度の測定
X線回折の原理
X線と結晶構造の対応関係は回折現象を利用して行います。回折現象が起きる結晶の原子が並んだ面は、特定の規則(ブラッグの式)によって決まることが分かっており、回折X線の強度を回折角に対して測定することで結晶構造を決定することができます。

装置仕様
- 照射X線種:CuKα、CoKα
- 照射領域:汎用測定 ~φ20mm程度(試料回転可能な場合)
:微小部測定 φ1mm程度(カメラにて位置指定可能) - 検出器:半導体1次元検出器、シンチレーション検出器
- 光学系:集中光学系、平行ビーム光学系
サンプル仕様
- 粉体状、板状、塊状など測定装置のステージにホルダーや治具で固定できるものなら測定可能。
- 専用のin situ測定用ハーフセルやラミネートセルを使用することで、電池充放電に伴う正極材/負極材の構造変化を測定可能。
リチウムイオン電池材料の構造解析の事例
事例1;鋼中の多結晶析出物(抽出残さ)の構造解析
鋼材の中から母相の鋼のみを電気分解で溶かして採取した多結晶析出物(抽出残さ)のX線回折図形と同定結果を下図に示します。
得られた析出物の回折図形によれば、窒化チタン(TiN)の標準データと一致することからTiNであることが推定されますが、元素種に関する情報は得られないため、同定には予め他の方法で構成元素を確認することが必要です。この析出物もTiとNが含有されることを予め蛍光X線分析で確認して、析出物がTiNであると同定されました。

事例2;α-Feとγ-Feの2相を含んだ鋼材のX線回折例
α-Fe(フェライト)相と炭素やNiなどの金属元素が入ることによって生成するγ-Fe(オーステナイト)相が混在するような鋼材ではγ-Fe相の存在量が硬さなどの特性に影響するため、その量的把握が必要になる場合があります。
下図はこの両相が存在する鋼材から得られたX線回折図形の例であり、γ-Fe相の存在量によって各相の回折ピーク強度が変化しています。

事例3; リチウムイオン電池正極材のX線回折
Liイオン電池正極材のコバルト酸リチウム(LCO) およびニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)のX線回折図形を示します。ともに層状岩塩型化合物(図5)であり類似した構造を持ちますが、格子定数の差により回折ピークがシフトしています。

正極材としての層状岩塩型構造は、下図のようにリチウムイオンと遷移金属イオンが交互に積層した結晶構造を呈します(α-NaFeO2 型)。
<111> 方向にリチウムとNi,Co,Mnなどの遷移金属が規則配列して二次元平面を形成し,リチウムの拡散によって電池反応が進行します。良好な充放電特性を得るには規則的な配列が好ましいと考えられています。

事例4;充放電時の正極材の構造変化測定
下図のように、X線透過能に優れたBe窓を使用したハーフセルを使用し、充放電時の正極材の構造変化を調査した事例を示します。
ラミネートセルを使用することで全固体電池を含む様々な電池における充放電中の構造変化を測定することができます。
ハーフセル使用

(ハーフセルを使用する場合)
ラミネートセルの使用

(ラミネートセルを使用する場合)
参考技術資料
・RSM-2303 電池材料のTOF-SIMS分析、AES分析
・RSM-2302 電子スピン共鳴装置(ESR)によるLiB負極内金属Liの定量分析