TEMー電子回折法を用いた結晶構造解析 ~自動車用ホットスタンプ材への適用事例~
RSM-2502
1.概要
透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy, TEM)で取得した電子回折図形は、微小領域の結晶構造解析において強力な手法です。また、電子回折法には複数の手法があるため、目的に応じて適切に使い分け・組み合わせを行うことで、多角的に試料の詳細を解析することができます。
評価に用いた透過電子顕微鏡法(TEM),走査透過電子顕微鏡法(STEM)についてはこちらから
各種電子回折法の特徴と用途
手法 | 制限視野電子回折図形 Selected Area Electron diffraction, SAED |
極微電子回折図形 Nano-Beam Diffraction, NBD |
収束電子回折図形 Convergent Beam Electron Diffraction, CBED |
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電子線 | 広範囲の平行ビーム | ナノスケールの平行ビーム | 収束ビーム |
回折スポット | シャープな斑点 | シャープな斑点 | ディスク状 |
測定領域 | 数百nm~数µm程度 | 数~10nm程度 | 数nm程度 |
用途 | ・比較的広い領域の結晶構造解析 ・平行方位関係(母相/析出物)の調査 ・TEM暗視野像の取得 |
・局所的な結晶構造解析 | ・試料厚さの測定 ・結晶の対称性(点群・空間群) ・格子定数の高精度測定 ・歪み解析 ・転位や格子欠陥の評価 |
2.測定事例;自動車用ホットスタンプ材におけるFe-Al合金相の結晶構造解析
●STEM-EDSライン分析による鋼板/めっき界面部の元素分析
ホットスタンプ用アルミめっき鋼板は、加熱・成形・焼入れの過程でFeとAlが相互拡散し、特有の金属間化合物が形成されます。
Fig.1(B)はSTEM-EDSライン分析による元素濃度の半定量値を示したものであり、界面を境界として、各元素の濃度が変化が見て取れます。

赤字:電子回折図形取得位置

●極微電子回折図形(Nano-Beam Diffraction;NBD)を用いた結晶相の同定解析
Fig.1中に示す代表点より取得した極微電子回折図形(Nano-Beam Diffraction;NBD)をFig.2に示します。a~dそれぞれで異なるNBD図形が取得され、鋼板/Alめっき界面で相互拡散が生じ、複数の金属間化合物が形成されたことが確認できます。
また、当社で開発した電子回折図形解析ソフトを用いることで迅速な結晶相の同定解析が可能です。

3.応用事例;収束電子回折図形による相同定信頼性の向上
Fig.3に示す通り<001>入射から取得したNBD図形からは消滅則の影響により、特定の反射がみられないためFeAl相とFe3Al相の両相を判別することは出来ませんが、CBED図形では結晶の対称性や消滅則が顕著に反映されるため、両相の判別を可能とします。また、シミュレーション画像との比較・フィッティングを行うことで、視覚的に正しい解析であることを証明します。

※本事例のCBEDシミュレーションにはMBFITを使用 K. Tsuda, M. Tanaka, Acta Cryst. A 55 (1999) 939–954
Y. Ogata, K. Tsuda, M. Tanaka, Acta Cryst A 64 (2008) 587–597