有機溶媒直接導入ICP-OES&ICP-MS測定による油中の微量元素定量

STM-2201

1.概要

このレポートでは、油中の微量元素の定量について、試料をケロシンなどの有機溶媒で希釈した後、ICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析計)及びICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)のプラズマ中に直接噴霧する方法(有機溶媒直接導入法)をご紹介します。ASTM、JPI規格などの公定法に準拠した定量も可能です。
極微量域での定量はICP-MS、微量域での定量はICP-OESでの定量をお勧めします。(定量下限は表1参照)

本評価に用いた誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)はこちらから

誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)はこちらから

表1 分析装置の主な特⻑

分析装置 Agilent社製 ICP-OES 5900型
Agilent社製 ICP-OES 5900型
Agilent社製 ICP-MS8800型
Agilent社製 ICP-MS8800型
導入系 一般水溶液導入系
フッ酸試料導入系、
水素化物発生試料導入系
有機溶媒試料導入系
(導入系冷却温度-10°Cまで可能)
一般水溶液導入系
フッ酸試料導入系、
有機溶媒試料導入系
(導入系冷却温度-5°Cまで可能)
有機溶媒試料導入系対象溶媒 ケロシン、キシレン、NMP、THF、アセトン、PEGMEAなど
有機溶媒試料導入適用事例1) 油、有機溶剤中の不純物元素定量 他
油中微量
金属元素定量
適用規格 ASTM D 4951、ASTM D 5185、JPI-5-38、JPI-5-44、JPI-5-62 -
定量下限目安2) 5 mg/kg 0.01 mg/kg
試料量 20 g以上

1)本手法では溶存元素の定量を実施しております。不溶性微粒子込の定量をご希望の場合はご相談下さい。
2)共存成分の種類、含有量によって分析精度は変化する場合があります。

2.有機溶媒直接導入法

一般的なICP測定(一般水溶液導入系)では、油などの液体状有機物をプラズマ内に直接導入すると、イオン化効率の低下や有機物由来の煤(すす)発生による導入系の閉塞などが起こり定量ができない為、事前に有機物を分解し、水溶液にしてからICP測定を実施する必要があります。
一方、有機溶媒直接導入法では、次のような条件を最適化することで、水溶液化することなく定量が可能です。
1.プラズマ内に導入する試料量の適正化
2.導入系の冷却強化(揮発性の有機溶媒サンプルに有効)
3.アルゴンガスへの酸素添加による煤発生抑制

有機溶媒直接導入法では、煩雑な溶液化工程を省略した定量が可能となり、迅速化と操作ブランク低減による高感度化が期待できます。

図1 ICPの元素の原子化・イオン化イメージ
図1 ICPの元素の原子化・イオン化イメージ

3.測定事例:オイル標準物質中の微量元素の定量

オイル標準物質中の微量元素の定量をICP-OESおよびICP-MSで実施し、認証値と比較しました。

測定試料 オイル標準物質:EnviroMAT Used Oil HU-1(140-025-041)
ICP-OES装置 Agilent5900(有機溶媒試料直接導入系接続)
ICP-MS装置 トリプル四重極ICP-MS Agilent 8800(有機溶媒試料直接導入系接続)
希釈用有機溶媒 ケロシン

4.まとめ

有機溶媒直接導入法を用いて、オイル標準物質中の微量元素の定量を行った結果、ICP-OES法及びICP-MS法共に、認証値に近似した良好な結果が得られました。
尚、ギヤーなどの機器から採取された使用済み潤滑油中の微量元素の含有量を把握することで、表2に示すような機器の稼働状況を読み取れることが知られています。また、燃料油や有機材料(液体状有機物)の製品品質を確保する為、不純物や添加元素などの微量元素量を把握することが化学工業分野で重要となっています。
今回ご紹介した有機溶媒直接導入法はこれらの評価をする上でも、非常に有用な方法となりますので、是非お問合せ下さい。

表2 潤滑油及び燃料油の元素分析項目例

潤滑油
摩耗金属 Al,Fe,Cu,Cr,Ni,Znなど
冷却剤漏れ B,Na,K
シール材からの汚染 Si,Zn,Cr
添加剤 酸化防止剤(B,Cu,Zn) 界面活性剤(Ba,Ca,Mg,Zn)
摩耗防止剤(B,Cu,P,S,Zn) 防蝕剤(Ba,Zn)
摩耗調整添加剤(Mo) 防錆剤(Ba)
燃料油(原油、ガソリン、ディーゼルなど)
腐食促進 V,Fe,Ni,Si,Al
規制物質 Pb
Pb代替添加物 K,Mn
添加剤 酸化防止剤(B,Cu,Zn)

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