TD-NMR(パルスNMR)によるゴム材の劣化評価

RSM-2509

1.概要

TD-NMR(時間領域核磁気共鳴;Time DomainNuclear Magnetic Resonance)はパルスNMRとも呼ばれ、磁場中に置かれた試料の核スピンを励起させ、磁化が基底状態に戻るまでの時間(緩和時間)を解析することにより、高分子材料の架橋度や結晶状態、分散性、分子運動性を評価することができます。
本レポートでは、使用環境を模擬した条件で劣化試験を行ったゴム材の状態変化をTD-NMRによる緩和時間の観測によって評価し、材料の機械的特性評価(今回は硬さ)と考察した事例を紹介します。

TD-NMR

2.事例紹介 ■市販ゴム材(EPDM)の劣化評価

2.1 調査の目的

対象ゴム材(EPDM)を想定する使用環境での耐性(耐酸性、耐油性)を評価します。

2.2 劣化試験評価試料の調製

使用環境を模擬した劣化試験(表1)を行い、評価試料を調製しました。

表1 劣化試験条件

試料名 試験条件
浸漬時間 浸漬時温度
未処理材
酸浸漬材 12時間 室温
鉱物油浸漬材

2.3 劣化評価試験

2種の評価試料と未処理材を各条件(表2)で試験を実施しました。

表2 試験項目・条件

条件 分析・試験
TD-NMR IRHD硬さ
調査項目 1Hの緩和時間;(T2) 硬さ(5点測定)
測定温度 40°C 室温
測定形状 10×2×2mm 20×20×2mm
図1 ゴム材の外観
図1 ゴム材の外観
図2 TD-NMR測定の試料管外観
図2 TD-NMR測定の試料管外観
図3 IRHD試験の測定箇所 IRHD硬さ:国際ゴム硬さ
図3 IRHD試験の測定箇所
IRHD硬さ:国際ゴム硬さ
(International Rubber Hardness Degrees)

2.4 試験結果

■試料「酸浸漬材」について
・緩和時間(分子運動性)が「未処理材」より大きく増加し、架橋構造の緩みや可塑化の進行が推定されます。
・IRHD硬さは「未処理材」よりわずかに低下したのみで、極端な軟化は認められませんでした。

■試料「酸浸漬材」について
・緩和時間が「未処理材」より増加しており、鉱物油が可塑剤のように作用し柔軟性が増したと推定されます。
・IRHD硬さは「未処理材」より大きく低下しており、大幅に軟化しました。

図4 TD-NMR測定結果
図4 TD-NMR測定結果
図5 IRHD試験結果(平均値:5点測定)
図5 IRHD試験結果(平均値:5点測定)

2.5 まとめ

・ゴム材(EPDM)は酸に対してある程度の耐性はありますが、長期、高濃度環境下では物性変化(柔軟性の増加)の可能性があります。一方、潤滑油などの油に晒される環境では大幅に柔らかくなり、形状保持や力学特性の低下が懸念されます。

・TD-NMRでは、IRHD試験では捉えきれない試料内部を含めた全体の平均情報が観測されました。さらに、IRHD試験では試料の表面形状(平面・平行)や厚さに制約がありますが、TD-NMRではこれらに大きな制約がなく測定可能であることが確認されました。

3.TD-NMRの特徴

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