医薬品の元素不純物ガイドライン(ICH-Q3D)に対応する試験法のバリデーション実施例の紹介
AMM-2002
1.概要
医薬品規制調和国際会議(ICH)において、各国が医薬品の元素不純物(Q3D)ガイドラインに合意したことを踏まえ、日本薬局方が2019年6月28日付で改正されました。これにより、日本においても製剤中の元素不純物の試験、及び管理が必要となりました。
ICH-Q3Dでは、毒性と製剤中に存在する可能性によって、クラスが分類され(表1)、各元素ごとに設定された、許容一日曝露量(PDE)から、製剤中の元素不純物の閾値が決められています。
ICH-Q3Dでは、閾値の30%を管理閾値とすることが規定されているため、成分分析には管理閾値以下のレベルを精度良く分析する技術が要求されます。
当社では、鉄鋼・非鉄金属材料の他、各種工業材料分析で培った微量分析の豊富な経験を生かして、ICH-Q3D分析に対応致します。
本事例で用いた誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)の技術紹介はこちらから
表1 ICH-Q3Dにおける対象元素の分類
クラス | 元素 | リスク評価 |
---|---|---|
1 | Cd, Pb, As, Hg | 要 |
2A | Co, V, Ni | 要 |
2B | Tl, Au, Pd, Ir, Os, Rh, Ru, Se, Ag, Pt | 意図的に添加された場合のみ要 |
3 | Li, Sb, Ba, Mo, Cu, Sn, Cr | 注射剤※、吸入剤は要 ※Li, Sb, Cuのみ |
2.使用装置
作業環境 | クリーンルーム(class1000 class1000以下)、クリーンドラフト(class10 class10以下) |
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前処理装置 | マイクロウェーブ分解装置 |
測定装置 | ICP-MS |

3.測定事例;日本薬局方に基づく市販製剤の元素不純物試験
市販製剤を日本薬局方の元素不純物試験法に従ってバリデーション分析した結果を紹介します。(表3)
表3 バリデーション分析の結果
クラス | 元素 | 正確度(N=3) 添加回収率[%] 0.5J*添加 1J*添加 1.5J*添加 |
併行精度(N=6) R.S.D.[%] 1J*添加 |
室内再現精度(N=12) R.S.D.[%] 1J*添加 |
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1 | Cd | 102 | 100 | 99 | 2 | 2 |
Pb | 105 | 98 | 96 | 2 | 3 | |
As | 108 | 104 | 107 | 1 | 2 | |
Hg | 111 | 107 | 100 | 1 | 3 | |
2A | Co | 100 | 99 | 101 | 1 | 1 |
V | 106 | 105 | 107 | 0.4 | 1 | |
Ni | 100 | 98 | 100 | 1 | 1 | |
許容基準 | 70~150% | ≦20% | ≦25% |
*閾値(μg/g)を分析に供したときの元素添加量(μg)を「J」と定義
表4 市販製剤中の元素不純物の分析結果 単位:mass ppm(μg/g)
表3に示す通り、バリデーション分析の許容基準をクリアしたため、実際に市販製剤中の元素不純物を分析した結果を紹介します。(表4)
クラス | 元素 | 経口 製剤閾値 | 分析した市販製剤 |
---|---|---|---|
1 | Cd | 0.5 | <0.05 |
Pb | 0.5 | <0.05 | |
As | 1.5 | <0.15 | |
Hg | 3 | <0.3 | |
2A | Co | 5 | <0.5 |
V | 10 | <1 | |
Ni | 20 | <2 |
当社では、製剤中の元素不純物を閾値の1/10のレベルから分析可能です。