TOF-SIMSを用いた斜め切削断面分析(塗装鋼板の断面分析事例)

AMM-1804

1.TOF-SIMSの特長

飛行時間型質量分析 (TOF-SIMS: Time Of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry) は有機・無機 成分に関する情報 (フラグメントイオン)が一度に得られます。 定性分析や微小領域 (20μm口~500μm口)のマッピング分析は、 有機物・無機物の複合材料などの評価に有効です。
更に、 TOF-SIMSを用いて、 厚さがミクロンオーダー以下の積層構造などの深さ方向微小領域の分析が必要な場合は、 SAICAS (サイカス)により斜め切削面を作製することで、 通常の垂直断面と比 べ大幅に分析領域を拡大して分析可能です。

飛行時間型質量分析 (TOF-SIMS)の技術解説はこちらから

2.装置仕様

ION-TOF社製 TOF-SIMS.5
一次イオン銃 Bi(Bi1+ Big3+ Big3++)、Ar-GCIB
分析領域 20~500μm口
スパッタイオン銃 Art、O2+、 Cs+、 Ar-GCIB
試料サイズ 16×12mm2、8mm以下 (バックマウント) 90mm、12mm以下(トップマウント)
その他 Zalar試料回転対応、SIM像取得可能
TOF-SIMS.5
※) https://www.iontof.com/

3.調査試料:塗装鋼板の情報

塗装鋼板は、家電、建材または車のボディーなど日常生活の様々なものに使用されています。それぞれの使用用途で必要とされる特性は多岐に渡るため様々な有機・無機材料を組み合わせた機能強化が行われています。
左:各層の構成、中央:断面SEM観察写真(上塗層 13μm/下塗層 5μm)、右:20倍斜め切削断面写真(下塗り層5μm→100μmに拡大)
左:各層の構成、中央:断面SEM観察写真(上塗層 13μm/下塗層 5μm)、右:20倍斜め切削断面写真(下塗り層5μm→100μmに拡大)

4.1事例;マススぺクトル分析による表面処理層の材質の推定

マススペクトル分析の結果から今回測定した上塗層の成分は、主にポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、下塗り層はSr、Ba、リン酸などの無機成分やエポキシ系樹脂が用いられていることが推測されます。また、両層共にC-N系イオンが検知されたことから、窒素系の硬化剤が用いられていることが推定されます。

※同定を行う場合は、Referenceサンプルの測定や他の測定手法と併用する必要があります。

トータル二次イオン像(正)、正イオンマススペクトル分析結果
左:トータル二次イオン像(正)、右:正イオンマススペクトル分析結果
トータル二次イオン像(負) 、負イオンマススペクトル分析結果
左:トータル二次イオン像(負) 、右:負イオンマススペクトル分析結果

4.2事例;マッピング分析による表面処理層の元素分布

マッピング分析の結果から上塗層および下塗層において樹脂由来成分の他にフィラー成分や防錆剤成分と推測されるSi、Ca、 C-F、Sr、Ba、 P-Oイオンが粒状もしくは針状に分布している様相が分かりました。
上:上塗層成分、下:下塗層成分
二次イオンマッピング分析結果
重ね合わせ像
重ね合わせ像
 

以上のようにTOF-SIMSを用いることにより、各層で異なる有機・無機成分の情報やそれらの分布状態を一度に得ることが可能です。

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