塗膜・コーティング材料のガラス転移点測定

STM-2203

1.概要

塗膜などのコーティング材料の硬化特性評価やガラス転移点等の物性評価を、基材から削り取ることなく簡便に測定できる剛体振り子型物性試験について、PETシートのガラス転移点(Tg)測定を例にご紹介します。

2.剛体振動による自由減衰振動法(FDOM)とは

剛体振り子型物性試験は、剛体振動による自由減衰振動法(FDOM;Free Damped Oscillation Method)と呼ばれます。図1のように、基材表面に塗布された試料(塗料や接着剤、ポリマーフィルム等)の上にエッジを付けた剛体振り子を取付け、温度によって変化していく振動周期(T)と対数減衰率(⊿)を計測することで、試料のガラス転移点(Tg)など、①硬化過程の特性(液体→固体)や②固体の諸物性(図2参照)を評価する方法です。本装置では、-80°C~+400°Cの温度範囲で物性変化を持つ材料の評価に利用可能です。

実用的な塗膜の物性評価では、基材への付着による物性効果は重要な因子であり、塗膜を削り取る事なく実用基材上での評価が可能な本手法は、より実用的な情報を提供します。また、自動車コーティングに使用されるような多層コーティングの測定も可能です。

図1 剛体振り子型物性試験の構成とエッジの選択
図1 剛体振り子型物性試験の構成とエッジの選択
図2 硬化塗膜の物性

*ガラス転移点(Tg)とは
ガラス転移とは、材料が硬いガラス状から柔らかいゴム状へと状態を変えることです。試料の構成物質の緩和現象として理解されます。本法でのTgは熱力学的転移点(二次転移点)とは異なります。
引用:1995 年 68 巻 7 号 p. 434-444色材協会誌 第5章 塗膜の粘弾性(その2)(木下啓吾、坪田実、長沼圭)

装置型式 剛体振子型 物性試験器
(株)エー・アンド・デイ製 RPT-3000W型
測定温度 -80°C〜400°C
試料形状 50mm×20mm×tmm(実用的な厚さ:数mm迄)
測定モード(エッジ) 1.硬化測定(ナイフエッジ使用)
2.物性測定(丸棒タイプ使用)
振動周期
対数減衰率
0.050〜2.000秒
0.001〜6.000
温度設定 加熱:0〜60°C/分 冷却:-15~0°C/分
ISO規格 ISO 12013
塗料及びワニス-自由減衰振動法による硬化特性の求め方
第1部:硬化反応の開始温度
第2部:ガラス転移温度(Tg)

3.測定事例;PETシートのガラス転移点(Tg)測定

PETシートを冷熱ブロックにセットし、丸棒タイプのエッジを付けた剛体振り子を用いて測定しました。(図4)

【測定条件】

試料 PETシート (基材なし)
試料形状 50mm×20mm×0.1mm
剛体振り子 FRB-100
エッジ RBP-040(丸棒タイプ)
測定温度 室温〜180°C
昇温速度 7°C/min
図3 PETシートのTg測定の様子
図3 PETシートのTg測定の様子
図4 剛体振り子型物性試験器によるTg測定結果(PETシート)
図4 剛体振り子型物性試験器によるTg測定結果(PETシート)

*本法でのTgは熱力学的転移点(二次転移点)とは異なります。

◆ガラス転移点(Tg)の求め方

熱エネルギーが増加すると、樹脂の構造が動き始めて粘性が変化し、そこで対数減数率も変化します。(A点)
エネルギーが増える、すなわち温度が上がると構造は動きを続け、対数減衰率(=粘性)は上昇し続けます。 (B点)
試料の構成物質が全て動くと、粘性の増加は一定になります。しかし、温度が上昇している為、粘性は低下し、対数減数率も低下します。(D点)。 その結果ピークが現れ、対数減衰率が最大となる温度が温度がガラス転移点(Tg)となります。 (C点)
※試料が複数の硬化材料で構成されている場合は、それぞれのガラス転移点に応じて複数のピークが現れます。

4.まとめ

剛体振り子型物性試験では、塗膜を削り取る事なく実用基材上での測定が可能であり、付着の効果も含めた塗膜の物性が評価できます。また、材料の硬化過程の挙動や物性(Tg、粘性、弾性、橋架け具合)の比較や評価を簡便に実施することができます。材料の開発・改良、品質管理、生産ライン設計、トラブル対策など、幅広い分野で活用できますので、ご相談下さい。

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