鉄鋼材料をはじめとする各種金属材料は動的な荷重負荷を受けた場合、静的な負荷条件による場合と異なる変形・破壊挙動を生じることが知られています。動的な負荷条件の下では降伏応力をはじめとする各種強度の上昇を生じ、伸びや破壊靭性の低下が認められるなど、通常の静的負荷条件下において評価される機械的特性と大きく異なる値を示します。
昨今のコンピュータシミュレーションを用いた加工成形性あるいは車体の衝突安全性の検討を行う上で、素形材の動的環境下での特性把握が重要になってきています。特に鋼板・鋼材の高強度化が進められている中で、従来の軟鋼と異なる高速変形・破壊挙動を把握することが求められています。
これらの材料評価に際し、弊社では高速引張試験機を保有しております。試験機の能力および評価例を以下にご紹介いたします。
高速引張変形挙動を評価するうえで、従来の静的環境下での引張試験とは異なる対応が必要とされ、以下のような特徴を有します。
表1.高速引張試験機の特徴
利点 | 欠点 |
---|---|
・加工条件あるいは衝突条件などに必要とされる高速のひずみ速度の設定が可能である。 ・計測技術の発達により、デジタル信号でのデータ抽出・評価が可能 |
・試験機の荷重制約のため、大規模な試験片の適用は困難。 ・ひずみ速度と試験片形状の相関により、共振現象を発生する場合がある。 |
形式
ハイドロショットHITS-T10(島津製作所製)
負荷容量
最大10kN
最大速度
20m/s(時速72km/h)
ピストン移動量
300mm
試験力精度
±1%/レンジフルスケール
サンプリング間隔
最小0.5μs(200万点/s)
図1.試験片形状例
写真1.高速引張試験機外観
<採取可能な曲線>
応力-ひずみ曲線、時間-荷重曲線、時間-変位曲線 デジタルデータでの採取
<採取可能な特性値>
0.2%耐力 引張強さ 破断伸び
本高速引張試験機を用いた冷延鋼板(SPCC鋼板)の評価事例を以下の図2に示します。
デジタルデータの採取が可能であり、CAD/CAMの設計等に用いる物性値データとして有効と考えます。
図2.高速引張試験結果例 降伏現象の変化の把握(冷延鋼板での評価事例)
動的変形により材料強度特性、特に変形に大きな影響を及ぼす降伏挙動は大きく変化します。新たに採用をご検討される材料だけでなく、旧来からご使用されている材料につきましても、新しい特性評価の切り口として、本試験機を用いた高速引張試験法をご提案いたします。