腐食損傷部材の調査解析に関する解説

腐食による損傷の原因解析と事例

腐食による損傷には、構造設計や加工方法の不適、局部的な環境の不適合、材料選定の不適など多種多様な原因があり、それぞれ個別に過去の腐食事例を参考にして原因を解明し、防止策を考える必要があります。ここでは腐食損傷の解析手順、局部腐食の形態と特徴、腐食割れの形態と特徴、腐食損傷事例の原因とその対策について紹介します。

腐食損傷の解析手順

表1 腐食損傷の解析手順

腐食損傷
現場の状況把握 現場の保存 一切触ることなく腐食損傷が生じた状況を保存する
目視観察 損傷部の変色や付着物、位置関係などを把握する
使用材料の材質チェック

仕様通りの材料が使われているかをチェック

オーステナイト系ステンレス鋼は磁石で判断可能

SUS304とSUS316との違いはMo検査薬でチェック

環境条件・運転状況の調査 起動運転、定常運転、停止運転を時系列的に把握する運転条件の変更の有無は重要
過去の類似事例調査 文献、過去のデータ集
腐食損傷材の切り出し

腐食損傷解析のためのサンプリング

汚染させないこと

溶断する際は過熱を防止するため十分に離れた位置で切断

腐食損傷の解析 そのままの状態で観察 付着物や着色状況、液の流れ、上下関係、過熱位置、冷却位置を記録する
付着物採取

写真撮影

付着物の化学成分分析、pH測定、X線回折を行う

付着物の除去 付着物を除去し、金属表面の凹み、割れ(経路、本数、分岐の状況)、類似部位との対比、溶接や塑性加工の状況を調査
腐食損傷材からのサンプリング採取

加工、熱処理の適切性や硬度調査

残留応力のチェックや破面解析(詳細は下記)

腐食試験および再現性試験 材料特性を明らかにするため腐食試験を行う。腐食試験には孔食試験、隙間腐食試験、粒界腐食試験などがある 再現性試験は実機での主要な腐食条件を模擬する促進試験

破面観察

破面観察は、割れの起点や進展状況を容易に知ることができるので、損傷原因の究明にとって有用です。

マクロ破面(図1)には、おおざっぱに見て次の二つの特徴的な模様があります。一つは起点部から放射線状に広がる模様(実線で示す)で、これはき裂の進展方向を示すものです。他の一つは応力の変動に起因する段差(点線で示す)であり、応力変動の著しい疲労破面でよく見られます。 実線の実体は割れの進行に従って生ずる段(ステップ)であり、き裂の進展にしたがい段が高くなります(図2)。このステップをミクロ的に観察するとリバー状模様(写真1)となり、ミクロなき裂進展方向を表しています。現実の材料では、応力の大きさや結晶粒の方位がミクロ的に変化しているので、写真1のように複雑な破面模様を呈します。

  • 破面観察

局部腐食の形態と特徴

実プラントにおける腐食トラブルの多くは、進展速度の予想が困難な局部腐食で生じます。局部腐食は金属表面の保護被膜が局部的に破壊されることによって発生し、孔食、粒界腐食、すき間腐食、接触腐食(ガルバニ腐食)などがあります。これらの模式図と実際の例を図3に示します。 またこれらの特徴を表2に示します。

図3 局部腐食の種類

孔食 粒界腐食 すき間腐食
模式図 孔食模式図 粒界腐食模式図 すき間腐食模式図
腐食例 孔食腐食例 粒界腐食腐食例 すき間腐食腐食例

表2 局部腐食の特徴

孔食 粒界腐食 すき間腐食 接触腐食
現象 ハロゲンイオン(Cl-など)によって不働態披膜が局部的破れ孔状侵食される現象 微量成分の粒界偏析や粒界析出物に起因して粒界が選択的に腐食する現象 金属同士やパッキングとのすき間部で、すき間内外の濃淡電池によって腐食が進行する現象 異種金属の接触下で卑な金属の腐食が促進される現象
腐食現象模式図 孔食腐食現象模式図 粒界腐食腐食現象模式図 すき間腐食腐食現象模式図 接触腐食腐食現象模式図
発生例 ステンレス鋼やアルミニウム合金の塩化物水溶液中非金属介在物など金属不均一性が引き金 ステンレス鋼やアルミニウム合金の熱処理不適当な場合や溶接熱影響部 ステンレス、アルミ、チタン等のフランジ面 Al-鋼(Al腐食大)、鋼-ステンレス(鋼腐食大)の接触部
発生要因

ハロゲンイオン・溶存酸素(環境側)

介在物・欠陥など(材料側)

粒界クロム欠乏層、微量成分、粒界偏析、粒界析出物など(材料側) すき間構造・酸化スケールなど(構造・材料側)、ハロゲンイオン・溶存酸素(環境側)(成長段階:孔食と同一機構) 電位差のある金属同士の接触(材料側)

腐食割れの形態と特徴

腐食割れには、応力腐食割れ(SCC)、腐食疲労、水素脆化割れがあります。これらの割れの形態と特徴を図4に示します。

  • 破面観察

    a. 応力腐食割れsp          b. 水素脆化割れ

    図4 腐食割れの形態と特徴

  • 応力腐食割れと腐食疲労は腐食作用と応力との複合作用により金属が割れる現象です。腐食疲労は腐食環境下で繰り返し応力により、また応力腐食割れは引張り応力(残留応力または外部負荷応力)により、表面保護皮膜が局部的に破壊され、腐食が集中的に進行し割れに至るものです。

    応力腐食割れの経路は、金属・環境の組み合わせによって異なり、一定していません。ある組み合わせでは、割れは結晶粒を貫いて進み(粒内割れ)、別の場合には結晶粒界に沿って進みます(粒界割れ)。応力腐食割れが起こる材料・環境の組み合わせを表3に示します。応力腐食割れは、材料、環境、応力の3つの因子が同時に作用したときに起きる現象であるため、3因子のうちいずれか1因子を除去させるか、あるいは2つ以上の因子を軽減させることが防止対策となります。

    表3 応力腐食割れの形態と発生環境

    割れ形態 材料/環境 組み合わせ 発生要因
    粒内割れ 粒内割れ

    炭素鋼/青酸水、H2S水、CO-CO2-H2O、液安※ オーステナイト SS/塩化物、高温水、苛性アルカリ※

    フェライト SS/H2S水、NaCl

    Ni基合金/HF

    Cu合金/NH3水※、アミン水※、高温蒸気※

    Mg合金/蒸留水・清水、K2Cr4含有NaCl

    介在物

    析出物

    表面被膜

    材料欠陥

    粒界割れ 粒界割れ

    炭素鋼/硝酸塩、NaOH、ぎ酸-エタノール

    オーステナイトSS/ポリチオン酸、So2-メタノール

    フェライトSS/高温蒸気、NaOH

    Ni基合金/苛性アルカリ、高温水

    Al合金/海水、NaCl

    Cu合金/硫化物液

    Ti合金/HCl含有アルコール、発煙硝酸

    微量元素の粒界

    偏析

    粒界クロム欠乏層

    粒界析出物

    粒界不整ほか

    ※粒内+粒界割れ

  • 水素脆化割れには水素脆性と水素誘起割れの2種類があり、特徴を表4にまとめて示します。

    詳細は水素脆化を参照して下さい。

    表4 水素脆化割れの特徴

    水素脆性 水素誘起割れ
    発生現象 腐食などによる応力集中部の発生と水素の侵入による脆化 鋼表面での水素原子の生成、介在物近傍での高圧水素の生成により割れ発生
    材料要因 強度(硬度)が主要因、合金元素は2次的因子 鋼中の介在物 (MnS、Al2O3など)
    応力 引張応力が必要 応力なくても生じる
    割れの特徴 主として粒界割れ ヘヤーラインクラック 粒内割れ 介在物が起点
    発生温度 室温~およそ100℃

腐食損傷事例の原因と対策

代表的な腐食損傷事例の原因と対策を表5に示します。更に実際の例を写真2に示します。

腐食は、局部的に温度が高いなど、装置の設計上の問題に起因することがあります。そのため、材料変更や防食コーティングなどを行うことはコスト高になり、時には材料を変えたため新たな問題に出くわすこともありますから、対策には総合的な検討が必要であり、まずは設計構造面から、次いで環境面から、最後に材料面からの変更を考えるべきでしょう。

とくに構造面では、単純構造で隙間や液の滞留部分が少ないこと、異種金属を直接接触させない構造にすること、過度の乱流を避けエロージョンが発生しにくい構造にすること、応力集中部が少なく腐食環境での強度に見合った低応力設計にすること、などの配慮が肝要と考えられます。

表5 代表的な腐食損傷事例の原因と対策

腐食現象 発生部位 使用材料 原因 対策 写真2

全面腐食

(アルカリ腐食)

ボイラ

水壁管

低合金鋼 ボイラー水中の遊離アルカリが伝熱部に濃縮して、蒸発管を腐食する。

1.水質基準の変更(リン酸ソーダ → AVT)

2.蒸発管内面デポジット量の管理と酸洗いによる除去

a
粒界腐食

化学工業プラント

溶接熱影響部

SUS304 鋭敏化に伴う粒界クロム欠乏層部の優先腐食溶解による。

1.溶接後熱処理

2.C量を低減させた"L"鋼の使用

すき間腐食

海水熱交

(多管式)

SUS316L 管/管板(329J2L) すき間部で孔食+すき間腐食発生。

1.流速の管理

2.材質変更[耐孔食・すき間腐食性指標である(Cr+3Mo) 値の高いDP3(SUS329J2L)を使用]

潰食 復水器 アルミ黄鋼 冷却海水の乱流、混入空気、砂などの異物の衝撃作用

1.冷却水速度の管理

2.鉄イオン注入による保護皮膜の形成

SCC

(硝酸塩)

熱風炉

鉄皮

炭素鋼

(SS41)

空気の高温加熱で発生したNOxの溶接熱影響部での凝結による硝酸塩生成により割れを発生。

溶接部残留応力除焼鈍

耐硝酸塩SCC鋼SR41の使用

b

SCC

(塩化物)

熱交換器

SUS304 管板/管のすき間において濡れと乾きにより塩化物が濃縮し、溶接残留応力部で割れを発生。

1.運転条件の変更(水分の凝縮をさける)

2.応力除去焼鈍

3.材質変更(フェライトステンレス鋼や2相ステンレス鋼の採用)

水素脆化割れ

高力

ボルト

高張力鋼 不完全ネジ部で遅れ破壊により割れが発生。ネジ底より粒界割れが発生し、進展部では擬劈開破面となった。 1.材質変更 c
  • a.ボイラー水壁管(炭素鋼)/

    アルカリ腐食

    破面観察
  • b.熱風炉鉄皮(低合金鋼)/

    NOx(硝酸塩)SCC

    破面観察

    写真2 腐食と割れの実際例

  • c.高力ボルト(高張力鋼)/

    水素脆化割れ

    破面観察
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