酸・アルカリ溶液中での腐食形態には全面がほぼ均一に腐食していく全面腐食と、腐食が局部的に集中して起こる局部腐食があります。実プラントにおける腐食トラブルは、予想が困難な局部腐食によることが大部分です。
実プラントにおいて発生頻度の高い局部腐食は粒界腐食、孔食・隙間腐食、異種金属接触腐食などがあります。ここでは粒界腐食と孔食・隙間腐食の評価法について紹介します。
化学工業プラントや発電プラントの炉容器や配管材料に多用されているステンレス鋼の溶接熱影響部(HAZ)は、実環境下でしばしば鋭敏化によって粒界腐食を起こします。さらに鋭敏化は粒界腐食のみならず孔食・隙間腐食や応力腐食割れ(SCC)等の局部腐食感受性を高める原因ともなります。
弊社で実施している鋭敏化を検出する粒界腐食試験法は表1に示した5種類の試験方法です。
試験法名称 | JIS | 試験条件 | 評価 | 対象 | 特徴 |
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ストラウス試験 (硫酸・硫酸銅腐食試験) |
G0575 | 沸騰 15.7%硫酸 +5.5%硫酸銅 +Cu 片中 16hr 浸漬 |
90°以上曲げ後の粒界割れの有無 | ステンレス鋼 | クロム欠乏層 |
ストライカー試験 (硫酸・硫酸第二鉄腐食試験) |
G0572 | 沸騰 50%硫酸 +硫酸第二鉄 120hr 浸漬試験 |
重量減より腐食度を求める(当事者間の協議) | ステンレス鋼 | クロム欠乏層 一部鋼種のσ相 |
ヒューイ試験 (65%硝酸腐食試験) |
G0573 | 沸騰 65%硝酸中で48hr・5回 | 重量減より腐食度を求める(当事者間の協議) | ステンレス鋼 | クロム欠乏層 炭化物σ相 |
10%しゅう酸エッチ試験 | G0571 | 10%しゅう酸中で電解エッチ、室温、電解時間90s 電流密度 1A/cm2 | 組織観察により分類 ・段状(step) ・溝状(ditch) ・混合(dual) |
ステンレス鋼 | クロム炭化物 析出状態 |
EPR試験 (電気化学的活性化率測定) |
G0580 | 0.5M硫酸+0.01MKSCN中で往復分極曲線の測定30℃ | 往路と復路のピーク電流比 | ステンレス鋼 | クロム欠乏層 非破壊でも可能 |
沸騰硫酸・硫酸銅水溶液中に試験片を16時間浸漬し、試験後90°以上曲げて粒界に割れが生じるか否かを調べ、クロム欠乏層の有無を検出します。銅片を接触させた状態で浸漬することによりステンレス鋼の自然電位を活性化電位に安定するので、比較的短時間で完了でき、広く用いられています。
沸騰50%硫酸に硫酸第二鉄を添加した液中に120時間浸漬し、腐食減量を測定る方法で、比較的純粋にクロム欠乏に起因する粒界腐食感受性を検出できます。わずかな硫酸濃度の変動によって腐食速度が著しく変化するので注意を要します。JISでは50±0.3%と規定されています。
沸騰65%の硝酸浸漬によりステンレス鋼の電位を過不働態に近い高電位に保持し、クロム炭化物及びシグマ相の析出による粒界腐食感受性を調べるもので、他の方法ではわからないシグマ相析出に起因する粒界腐食が検出できます。本法は硝酸プラントにおける粒界腐食事例をもとに開発された試験法で、その採用に当たっては使用環境を考慮する必要があります。
沸騰水型原子炉(BWR)ステンレス鋼配管のHAZのSCC感受性を調べるために考案された方法です。KSCNを含む硫酸水溶液中で、活性域から不働態域まで速い電位走査速度で往復分極させ、復時に流れる電気量、または往復時のピーク電流の大きさを計測して試験片の鋭敏化の程度を調べます。実装置に小型試験槽を取り付けて直接計測できることが特徴です。
[鋭敏化]とは
溶接施工時にステンレス鋼がクロム炭化物(Cr23C6)析出温度域を通過するような熱履歴を受けると結晶粒界にクロム炭化物が析出し、その周辺のクロム濃度が低下します。クロム濃度が約12%を切ると、粒界腐食感受性(写真1)を示すようになります。この現象を“鋭敏化”と呼んでいます(図1)。
写真1 鋭敏化した304鋼の粒界腐食
(沸騰 65%硝酸、144h)
図1 クロム欠乏域の生成(模式図)
“孔食”とは通常塩化物等を含む水環境に置かれた金属表面に凹み状の金属溶解箇所が拡大していく腐食形態です。また、“隙間腐食”とは、物質移動を制約された狭い隙間の内部で金属溶解が起こる腐食形態です(図2)。
弊社で実施している孔食・隙間腐食試験法を表2に示します。
表2 孔食・隙間腐食試験法
形態 | 試験法名称 | JIS | 試験条件 | 評価 | 対象 | 特徴 |
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孔食 | 塩化第二鉄浸漬試験 | G0578 | 1/20規定塩酸 +6%塩化第二鉄 水溶液中24h浸漬 |
・重量減 ・孔食発生臨界温度 |
ステンレス鋼 | 実環境との対応に問題あり |
孔食電位測定 | G0577 | 3.5%食塩水、30℃ 走査速度20mV/min |
電流密度 10μA/cm2 又は100μA/cm2に対応する電位を孔食電位とする |
ステンレス鋼 | 走査速度依存性が大きい | |
隙間腐食 | シングルクレビス腐食試験 | 無(ASTMG48-B) | 6%塩化第二鉄 水溶液中 72h浸漬 (22℃又は50℃) |
侵食深さ | ステンレス鋼 | テフロンをゴムバンドで密着させる |
マルチクレビス腐食試験 | 無(ASTMG78) | 実海水又は一定 塩化物濃度の水溶液(ラボでは298Kで30日以上) |
・隙間腐食発生率 ・最大侵食深さ ・重量減 |
ステンレス鋼 | 複数の歯形をもつ隙間形成材(テフロンなど)を試験板の両側より一定トルクで締め付ける | |
隙間腐食 再不動態化 |
G0592 | 200 ppm Cl- | 往復分極により再不動態化電位ERを測定 | ステンレス鋼 |
0.05規定HCl+6%塩化第二鉄水溶液中に試験片を水平に24時間浸漬した後、重量減(腐食量)を測定して耐孔食性を評価します。
Fe3+は酸化剤として作用し、海水中よりかなり厳しい環境となるため、海水中での耐食性(使用の可否)との対応に問題があります。溶液温度を24時間ごとに上昇させて孔食発生臨界温度(CPT, Critical Pitting Temperature)を求める方法も行われています。
脱気した3.5%食塩水中で電位走査し陽分極して孔食電位(Vc)を求めるもので、結果の一例を図3に示します。電流密度10μA/cm2または100μA/cm2に相当する電位をそれぞれ孔食電位V'C10またはV'C100とする。孔食電位が貴なほど耐孔食性に優れ、材料間の耐孔食性の相対評価ができます。
例えば、テフロン栓を輪ゴムで板状試験片に固定して、その間に隙間を形成させ、6%塩化第二鉄水溶液中に浸漬して腐食された隙間部の深さを測定します。
複数の歯形をもつ隙間形成材(テフロンなど)で試験片を両側からはさみ、ボルトナットで一定トルクで締め付け、塩化物水溶液に浸漬する方法で、欧米でよく行われています。評価法は隙間腐食発生率、最大侵食深さ、重量減などで行います。隙間が多数形成されるので統計的解析が可能です。写真2にASTM法で試験したSUS304鋼の表面状態の一例を示します。
隙間のある試験片を貴方向に分極して隙間腐食を起こさせた後、卑方向に10mVづつ電位を降下させて再不動態化してアノード方向への電流が増加しなくなる電位(ER)を測定する方法です。
図3 アノード分極曲線の一例
(SUS304鋼)
写真2 3.5%NaCl 溶液中 SUS304鋼に発生した隙間腐食の外観