戦略的商標の魅力

2023年10月4日 A.S

 過去4回に渡り特許についてのコラムが続きましたので、今回は別の知的財産から「商標」について、その魅力をご紹介いたします。商標は製品名やロゴ等で身近なものではありますが、実は特許と同様に、戦略的に活用されています。
 商標とは、簡単にいえば、商品やサービスに使用する「マーク(標章)」のことです。マークとは文字や図形、ロゴ等様々なものを指し(後述)、事業者が自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用する識別標識のことをいいます(※1)。識別標識であるマークを商品やサービス等の業務について使用することで、「このマークはこの会社の製品だな」と認識してもらったり、「このマークがあれば安心」と思ってもらったりと、ブランドへの需要者の信用を積み重ねていくことができます。
 商標登録を行うことにより、同じようなマークを同じような業務に対して他社が使用することを禁止できます。事業者側は他社からのただ乗りを防止することができ、消費者側も他社製品を誤って購入することを避けられます。製品名等に「™」や「®」が付いているのを見たことがあるかと思います。「™」は商標であることを示す記号で、特に登録商標については「®」を使用します。
 例えば、日本製鉄株式会社は、社名である「日本製鉄®」や下記の青い図形について、商標権を有しています(商標登録第6155532号および商標登録第5588086号。2023年9月19日現在)。

 商標権はこれらのマークに対し、業務と結び付けて登録されています。例えば、「日本製鉄®」の商標登録第6155532号では「金属の薄板及び厚板,鋼板」といった商品を指定しています。
弊社・日鉄総研でも、略称「NSRI®」について商標登録しています(商標登録第5577901号。2023年9月19日現在)。弊社が取り扱う様々な業務と結び付ける形で登録されており、私の現在の業務に関するものでは「知的財産権に関する事業の調査,知的財産に関する事業管理に関する助言,知的財産の事業に関する情報の提供」や「知的財産に関する研修会の企画・運営・開催及びこれらに関する情報の提供」といったサービスが指定されています。
 商標としてイメージしやすいのは社名や製品名、ロゴ等かと思いますが、そのほかにも色々なものに商標権が認められています。大幸薬品株式会社による、正露丸のラッパのメロディの音商標(※2)、株式会社ヤクルト本社による、ヤクルト®のプラスチック容器の立体商標(※3)、日清食品ホールディングス株式会社による、チキンラーメンの色彩のみからなる商標(※4)等です。
各社が自社の製品を見分けられるようなマークについて、ブランド保護のため、多面的に商標登録出願していることがうかがえます。
 商標権と特許権は同じ知的財産権ではありますが、異なる点も多くあります。
特許は新しい発明であることや容易に考え出すことができない発明であること(新規性・進歩性があること)が必要と第1回のコラムで述べました。一方、商標では新しさは求められないため、「NSRI」の略称を既に使っている会社があったとしても登録できる可能性があります。ただし、他の事業者と区別ができないもの(例えば、チョコレートに対して「美味しいチョコレート」等)は商標登録を受けることができません。
また、発明が保護を受けられるのは出願から原則20年ですが、商標権は更新することで保護期間を延長できるため、長く保護を受けることができます。商標権はその事業者が業務を行うことで蓄積された信用を保護するものだからです。
 私自身は商標に関する業務には携わっておりませんが、特許と商標のつながりを感じた思い出があります。特許調査を行っためっき鋼板に関する技術が製品化され、その製品名「ZEXEED®」が商標登録されたというものです(商標登録第6497848号。※5)。
 研究開発の成果である技術を守るため、我々は特許出願・権利化支援を行っています。特許権は技術を直接的に保護できるものですが、保護期間には限りがあります。商標権は更新により半永久的に保護することが可能ですから、製品名等を商標登録し「高耐食めっき鋼板といえばZEXEED®」と需要者に覚えてもらうことで、特許権の保護期間が満了した後でも競争優位性を保つことができます。