特許データの分析

2023年9月6日 G.M

 今回は特許のデータとしての側面とそのデータを使う業務その魅力についてご紹介しようと思います。
 多くの企業は、自社にとって重要な技術に関連する特許を出していると思います。ここで、「重要」という言葉は、現在重要なものや今後の事業計画において重要という意味です。そんな特許は、一度公開されれば誰でも中身を見ることができます。ある企業にとって重要な技術に関する情報を外部から調査できるという点で、特許は非常に貴重なデータと言えます。

 さっそくですが、ここから具体的なデータを例にとって、特許から分かることをご紹介していきます。図1はある企業A社の技術分野別の特許件数の割合です。(※1)最も多いタービン関連の技術に加えて、2番目、4番目に多いものもジェットエンジン等の熱機関周辺の技術ですので、A社の主要事業の一つとして熱機関が位置づけられていることは間違いないでしょう。ただし、この図からは技術分野ごとの特許件数の多さ、少なさの情報しか得られません。そこで、今度は時間軸も入れてみましょう。

図1. A社の技術分野別の特許件数割合

 図2は、A社の特許が技術分野別に、毎年どの程度の件数が出てきたか、という過去から現在までの推移を示します。(※2)横軸に年、縦軸は技術分野、バブルのサイズは件数の多さを示します。図2よりタービン等の熱機関関連の技術は2010年以降に件数が多くなっている一方で、レントゲン等の医療装置関連は2006年頃に多くの特許が出ていることが分かります。このことから、A社は過去には医療装置関連に注力しており、その後に熱機関関連の事業に注力し始めた可能性が示唆されます。

図2. A社の技術分野別の出願件数推移

 図2によってA社の過去を一部覗くことができましたが、多くの人が気になるのは未来の話だと思います。株価の変動も企業の将来性や期待などの未来の事柄が重要な要因の1つになると思います。プレスリリース等が無い限りは確定的なことは分かりませんが、企業が何の技術開発に力を入れ、それによって将来をどう変えていこうとするのかをある程度の確度で推測することは可能です。

図3. A社の直近5年の注力分野

 図3は直近5年間でA社が力を入れていると推測できる5つの技術分野を示しています。(※3)前のグラフと比べると少し複雑ですが、縦軸は直近5年の件数が過去と比較してどれだけ多いかという倍率を示します。(直近5年の平均件数)/(過去5~20年の平均件数)で算出され、縦軸に大きいほど直近5年で件数が伸びていることを示します。また、バブルのサイズは過去20年間の特許件数に比例し、これまで出してきた特許の規模数を示します。図3よりA社において直近5年で件数が特に増加している技術分野として電気・磁気等を利用した医療機器、金属粉末の加工、風力発電、セラミック技術、樹脂加工があることが分かりました。これらの5つの分野では、金属粉末の加工、風力発電、樹脂の加工が特にバブルサイズが大きくなっており、直近5年で件数が増加しつつも、これまでも一定の件数を出してきたことが分かります。ここで、少しだけ特許の中身を読むと、金属粉末と樹脂の加工技術はいずれも3Dプリンターに強い関連性があることが分かりました。図4は金属粉末、樹脂の加工をいずれも3Dプリンター関連の技術としてまとめた場合の注力分野のグラフです。

図4. 3Dプリンター関連技術をまとめた場合のA社の直近5年の注力分野

 図4から3Dプリンター関連の技術は過去20年にわたってある程度の件数の特許を出しつつも、さらに直近5年で件数が増加しているので、A社の今後の事業にとって重要視されているという可能性を考えることができます。
 このように簡易的なデータ整理であっても切り口を変えることで、様々な検討を行い、仮説を立てることができます。そして、この仮説を基にさらなる調査や提案を行っていくことが 特許調査の役割の1つであり面白さの1つです。特許調査の仕事において、調査方法、分析方法、考察方法は、必ずこうすればよいといった決まった手法はなく、ケースに合わせて創意工夫することが求められます。特許に興味がある方はもちろん、工夫しながら何か新しいことに挑戦することが好きな方にもおすすめできる仕事です。
 さて、こんなコラムを読んで、あなたは日鉄総研株式会社をどんな会社だと分析しますか?